第7章 克服の時間
『私は、とりあえずこっちを何とかします……それでいいですか』
「ああ、お前には今のこちらの状態を伝えたかっただけだ。もしもそちらが片付いて、俺達にまた何かありそうなら、その時はちゃんと呼ばせてもらう」
『約束、ですからね…絶対ですよ。呼ばなかったら私、怒りますから!書類仕事も全部、今度国木田さんに押し付けますから!』
「それくらい思っていてもらって構わない。…俺達は太宰と敦と鏡花の件で動けそうにない。そっちに一人でも、上手くやれるな?」
任せてください、と目尻に溜まった涙を腕で乱暴に拭って、短く挨拶をして電話を切る。
きつい太陽光に晒すのが嫌で、銃のホルスターに入れておいた指輪を首にかけ、振り返って烏間先生の元に歩いていく。
烏間先生だけでなく、寝込んでいる子まで私の方を心配している。
「白石さん、今の電話は…」
『すみません、取り乱して。とりあえず、こっちを何とかして……皆?』
話を切り替えようにも、皆が私の電話の内容を気にして頷いてくれない。
こんな事態の時に他のことに気を取られていては、大事な事を考えられなくなってしまう。
さっきの私が、そうだったように。
『……うちの後輩が二人、敵組織と他の組織に捕まりました。でも二人共、殺される事はありません。…後は聞こえてた通り、太宰さんが敵の策略で事故に遭って、全身の打ち身と右腕の骨折……今は意識が戻っていない。そう言われました』
「!太宰さんが!?それに白石さんの後輩が二人…」
『捕まってる方も大丈夫です、心配いりません。太宰さんもじきに目が覚めるだろうと…今の段階ではこっちの方が先を急ぎます。すぐに薬を奪いに…!』
一人でホテルから出ていこうとすれば、カルマ君に止められる。
離そうとしても、ギリギリと痛いくらいに腕を掴まれていて、振り払えない。
「待って蝶ちゃん。確かに蝶ちゃん一人で行くのが一番いいのかもしれない。でも、こっちで“残ってる側”が行きたいんだって気持ちも、理解してほしい」
カルマ君以外に目を向けると、特に寺坂君なんかは、犯人に相当腹を立てている様子だった。
『……烏間先生、殺せんせー。指示を…………出来るだけ早くに実行できて、かつ皆が安全に行く事の出来る指示を、下さい』
頭を整理したって、私だって内心焦ってる。
太宰さんの意識がないのは、それ程にショックな事なんだ。