第7章 克服の時間
『……私にそれを言うために教えたんですか』
「そうだ。探偵社の奴らが教えなかったのも同じ理由だろ…だが、それでお前が何も知らずに扉を作る方が俺からすれば恐ろしい。太宰の木偶はあれでも甘ぇ奴だ、特に女にはな…だからお前は、絶対にあの餓鬼の元に行くんじゃない」
中也さんにまた釘を刺され、はいと頷くことしか出来なかった。
「それと…ああ、こいつはいいか。蝶、お前今日BB弾部屋に置いていってるけど、あれはあのままでよかったのか?」
何だかまた誤魔化されたような気はしたけれど、新しい質問に答えることにする。
『あ、はい。代わりに何かあった時のために実弾はいっぱい持ってきてますし。対先生用の弾なら、必要があれば皆いくらでも持ってきてるので』
「そうか」
中也さんと何でもないような会話をしていれば、烏間先生が私を見つけてこちらに歩いてくるのが分かる。
『あ、烏間先生戻ってきた…じゃあ中也さん、そろそろ切りますね?』
「あ?もうか、仕方ねえな……あ、蝶」
『何ですか?』
思い立ったように私の名前を呼んだ中也さんに返事をすれば、これもまた何でもないような、それでいてどこかあたたかくなるような、いつもの返事が返ってきた。
「今日はもう電話出来ねえんだろ?…電話してきてくれてありがとな、嬉しかったよ。時間は早いが先にいっておく、おやすみ」
『!はい、私からも、お休みなさい!』
中也さんがフッと笑った気がして、少ししてから通話が切れた。
烏間先生に会釈して、自身の周りを覆い尽くすように壁を張り、外に出る。
『すみません烏間先生!もう大丈夫です!』
「いや、セッティングまでしてくれていたんだろう?礼を言うのはこっちの方だ。ところで、どうして壁を?」
私の壁は半透明なのだけれど、うっすらと赤みや橙色を帯びているように見えるため、よく見れば認識することが出来る。
『ああ、ほら。山の方にダミー人形置いてきましたし、匂いが分散してたら殺せんせーに作戦がバレちゃうかもしれないので』
「!そこまでは考えていなかった」
『ふふ、折角の皆の暗殺、こんな事で邪魔しちゃいけませんからね』
チャペルの方を見ると中から少しだけ光が漏れていて、あの映像の鑑賞が始まったのだと想像がついた。
海の上ではモーターボートが四つ浮かんでいて、準備万端といった様子だった。