第7章 克服の時間
「えっと、白石?…ここ船よりも幅あると思うんだが、そんなにダメなのか?」
『こっち向かないで!し、仕方ないでしょ!?』
水上チャペルへ向かうために桟橋を渡る。
岡島君の言う通り、船に乗る時ほど幅が狭いわけではない。
ただ、海の深いところまで続くこの桟橋は、なんせ距離が長い。
波の音や潮の香りがすぐそこで感じ取られて、いかにも海だというのを頭に認識させてくる。
「いや、向くなっつったって流石にお前がその調子じゃ心配にも……白石?」
休憩、と言わんばかりに途中で座りこめば、波の音も潮の香りも一層近くなってしまった。
海との距離も、断然近い。
ここ、大丈夫?
いきなり海に引きずり込まれたり、しない?
『な、何でもない、から…お、岡島君やっぱり先に行ってて!私ゆっくり行くから』
「そんな顔色悪いのに一人で行けるわけねえだろ!?本当にこっち来て大丈夫なのかよ?」
『チャペルに入っちゃえば見えなくなるから大丈夫なはず…痛っ、!』
使い物にならなさそうな足をすくませて座り込んでいれば、後ろから頭を軽く叩かれた。
「その様子のどこが大丈夫なんだよ?ほら、運んでやるから乗れ」
『は、運ぶって…!え、何で前原君が?一班はもう自由時間に切り替わったの?』
私の頭を叩いた犯人は前原君で、岡島君もこちらに歩いてくる。
「おお、来てくれたか前原!いや何、こいつも映像編集の方に来てもらったんだよ。で、後で磯貝が飲みもんとか買ってこっち来てくれる手はずになってる」
「殺せんせーを散々いびれるようなもん作り上げてやらねえとだしなぁ?そういうこった。おぶってってやるから早く乗れ」
『……っ、お、お言葉に甘えて』
岡島君は勇者だ、なんて言いつつ前原君を尊敬の眼差しで見ている。
中学生の男の子に情けないところ見せてこんな事までされるだなんて、とてつもなく恥ずかしい。
まあ、私も今は中学生なんだけど。
前原君の背中に顔を埋めて周りを見ないよう彼にしがみついていれば、思ったよりも早くにチャペルに着いたと声をかけられた。
恐る恐る顔を上げると、中は外の明るさで明るくて、海の音はやはりするものの見えることは無い。
『あ…ありがとう、前原君。岡島君も』
「いやいや、俺何もしてねえし」
「困った時はお互い様だからな、帰りも怖かったら言ってくれ」
本当に、ありがとう。