第6章 あたたかい場所
チュ…、とリップ音が小さく響いて中也さんの唇が離れ、結局怖いのがなくなったのに、今度は恥ずかしくて中也さんに抱きついた。
「ん?まだ怖ぇか?」
『分かってる、くせに…っ』
「ははっ、その通りだよ…してやらねえと、明日から蝶が寂しくなるといけねえからな?」
『じ、自分がしたかっただけでしょ…』
バレたか、なんてあっさり言ってしまうあたりがもう意地悪だ。
悪気なんてないといった声で、この人は私を恥ずかしくさせる。
嬉しく、させてくれてしまう。
「蝶はしたくなかったか」
『ッ、…したい……』
「それ、今の話か?」
また小さく頷いて、中也さんはそれに機嫌をよくして私をよしよしと撫でる。
したくなかったか、なんて聞いてきて、それだけで確信犯だって気づいてる。
私がそう言われて、したくなかったなんて言えなくなるの、中也さんは分かっててそう言ったんだ。
私が中也さんに逆らえなくなるのを分かってて、そう言ったんだ。
「お前も大概好きだよな…強請られんのも悪くねえ」
『中也さんのせい……?強請る?…わがままの間違いじゃ、ないの?』
中也さんが目を少し見開いて、すぐにフッと笑みを浮かべた。
「わがまま言ったつもりだったのか?それなら、だいぶ年相応らしく育ってきたもんだな…」
『何それ、馬鹿にしてないですか?今身体がこの年だから、時期的にも子供っぽくなったって仕方がなくって』
違う違う、と中也さんは笑いながら言って、私はまた首を傾げる。
「お前は子供っぽくなったっていいんだよ、折角俺んところに来てくれたんだから。ゆっくり、ちゃんと時間をかけて、大人になっていけばいい…子供の過程をすっ飛ばして、焦って大人になろうとなんかしなくていい」
折角自分のところに来たのだから。
それは今の事を指しているんじゃないと、すぐに気がついた。
『…違うよ、中也さんが私のところに来てくれたの。私の方が生きてるのに、変な感じ』
「俺の方がちゃんと大人に育ってるからな、仕方ねえよ。お前は俺に甘えるところから覚えなきゃならねえくらいに、変な年月を過ごしちまってたんだから」
こんなところまで私のことを考えてくれる人になんて、今まで出会ったことなんてなかった。
「それとも何だ?俺とこうしてんのはそんなに嬉しくねえか」
『!嬉しい…あったかい。大好き…』
「それならいい」