第6章 あたたかい場所
『ちゅ、うや……さん?その、ちょっと近い気が…退いて?』
グググ、と中也さんの胸板を恐る恐る押してみるも、やっぱり中也さんはビクともしない。
「いっつももっとくっついてんだろが、今更何言ってんだよ」
『それとこれとは話が別でっ…!?や、やだ中也さん!!』
さっきまでは恥ずかしくて中也さんを退けようとしていた身体が、瞬時に中也さんを欲して、首元を抱きしめた。
これはダメだ、大人気ないことされたって分かってるのに、中也さんから離れられない。
「おーおー、まだいきなりは慣れてねえか。でもまあ、これで俺んとこに来たな」
『や、ッ…中也さん、そこいる?離れない……?』
「いるいる、大丈夫だ。悪かったよ怖がらせて」
いつもなら一言声をかけて、一緒にいる時にしてくれるのに。
何をされたかといえば、普通に考えれば特に何ということもないこと。
リビングの照明を、リモコンを使って遠隔操作で消されたのだ。
中也さんが私をあやすように撫でて、おでこに口付けをする。
『お、大人気ないですっ…、ち、中也さんじゃなかったら許してな……やだ、やめちゃダメッ』
唇を離すとすぐに手を離してしまって、物凄く心細くなった。
気を抜いている時にいきなり真っ暗にされてしまうと、私は気が動転したように軽くパニックになってしまう。
任務の時なんかは割と大丈夫になったのだけれど、やっぱり四年前の攫われ方が効いているのだろうか。
震えの止まらない腕に気づいた中也さんが、薄暗い橙色のベッドライトをほんのりと付けて、声の雰囲気を変えた。
「……お前、俺と離れる前よりも悪化してねえか。確かに少し怖がらせようとはしたが、そんな恐怖症紛いの反応になる程じゃなかっただろ」
『恐、怖症…?私が、?』
「心当たり、あるか?」
中也さんの顔が見えてちょっとだけ安心して、コクリと頷いた。
すると中也さんも私と同じ事を考えていたのか、海か、と一言口にする。
『………多分』
「…悪い、怖ぇ思いさせたな。俺はいるから、大丈夫だ…離さねえよ」
私を抱く腕に力が入って、宥めるように頭を撫で続ける。
『ん…、中也さんに頭そうされるの、好き』
「知ってる。ついでに言うと、俺もお前にこうすんのが最近すっげえ好きだ」
『…知ってる』
言った途端に唇に柔らかいものが触れて、少しの間、キスをした。