第6章 あたたかい場所
『ええ!?そこ!?そこなの中也さん!!?』
「うるせえ!つべこべ言わずに大人しくしやがれ!変な方向から温風当てたらお前の髪の毛が傷んじまうだろうが!!」
『何で私より私の髪が好きなのねえ!?』
風呂から上がってからが勝負のヘアケア……だとかなんとか。
本当にこの髪がお気に入りらしい中也さんは、驚くくらいに私の髪の毛のケアに尽力している。
「髪が好きなんじゃねえよ別に、この髪がお前のもんなんだから、俺が大事にすんのは当たり前だろが…」
『え、ええ……ッ、と…でも中也さん、こういう髪がタイプなんでしょ?』
「あ?まあお前のだからな」
中也さんの予想以上にあっさりとした返しに一瞬呆気に取られて、調子に乗って色々と聞き返す。
『私のって…この色で、この髪質で、こんな触り心地の?』
「おう、これを持ってる奴もこれが似合うやつもお前しかいねえだろ」
『……さ、サイドアップも中也さんの趣味なんじゃ…』
「は?お前に似合うからそれが一番好きになってただけで……って、さっきから何聞いてんだよ」
まさかのタイプだからではなくって、私がこうだからこれがそのままタイプになったという発言。
思わぬ考えが聞けて、調子にも乗れなくなった。
『な、何でもっ……お、おろしてるのは…………?』
「………野郎の前に出したくねえくらいに綺麗だ」
『へっ…?…………!?』
今日の私は耳がおかしいのだろうか。
久しぶりに口にされた綺麗という言葉に、中也さんの言ってくれるようになった“可愛い”以上の何かを感じてしまった。
前々から綺麗と言われることはあったけど……まさかこの人、綺麗って言うのが元々最高の褒め言葉だったりしたの?
それを周りが可愛いとしか言わないから私が気付かなかっただけで、この人の中では、可愛いよりもそっちの方が、上だったの?
「印象だいぶ変わるからな…明日からも、出来ればおろしてるところは見せねえでほしいくれえだよ」
『……ね、…可愛いと綺麗じゃあ、どっちがいいの?』
「ん?お前が相手ならどっちでも?…蝶が両方共すげえ持ってるってのは、俺だけが知ってりゃいい」
『何それ、親バカ』
「違ぇよ、この馬鹿」
馬鹿じゃないのにそんなこと言うくせして、私の髪を乾かしながら頭なんて撫でてきちゃうんだこの人は。
こんなに私を撫でてくれる人、中也さんくらいだよ。