第6章 あたたかい場所
「言われなくとも。沖縄から戻って色々片がついたら、それこそもっと愛してやりなさいよ?蝶がそんだけ辛い思いで生きてきて、やっと会えたのがあんたなんだから…特に、孤独に生きてきた女は愛に飢えてるんだから」
私なんかよりもあんたが一番よく分かってるでしょうけど、と付け足され、それに答えると短くじゃあ、と言われて通話が途切れた。____
「もっと愛してやるっつったって…今でもだいぶいっぱいいっぱいなんだがなぁ、うちの可愛い姫さんがよ」
蝶が凄まじい快感に身を捩って、それが大きければ大きいほどに怖いと感じるのは、勿論女であれば当然の事。
しかしあいつがその最中に時折叫ぶように、あいつが今まで生きてきた中で、本当に“知らない”事なのだ。
こういう方面の事はおいておいて、知らない事がほとんど無いに等しいような蝶が初めて大きな快感を感じると、どう思うだろうか?
答えは簡単に、ただただ怖い。
孤独に生きてきたということは、そしてその中でそういう関係にまで発展した相手がいないということは…やはりあいつはまだ大人になりきれてはいないということ。
知らない、こんなの、自分は知らない…やめたらやめたであいつが生殺し状態になっちまって辛くなるから、ゆっくりじっくり、時間をかけて丁寧にしていってやらねえとならない。
そんなあいつにその先だなんて教えられるだろうか?
やはりまだまだ、早すぎる。
蝶は子供のようで子供じゃない……しかし根は単純で素直な、ただの子供。
何故蝶があんなに大人になりきれていないのか。
一緒に誰かと成長する前に、その誰かが死んでしまうからだ。
そして一度それを知ってしまえば、あんな性格の蝶の事…人の優しさが怖くなる。
恐らくあいつと初めて会った頃のあの感じを思い出せば、人と関わり合っていた期間の方がよっぽど少ない。
親しい人を作りたくない、別れて身を引き裂いても楽になれないようなもどかしい思いをしたくない、そういった思いがあいつを孤独にし続けた。
だから、望まれるのなら、出来る限りの愛をもって尽くしてやる。
覚悟もある。
後は、蝶と一緒に、大人になっていくのを待つだけだ。
あいつと一緒に、成長していくだけだ。
いつか、俺がいなくなっても、もう独りで生きる道なんてものを選ばなくてもいいように。
蝶の中身が、ちゃんと成長していけるように。
