第6章 あたたかい場所
「あいつからは、“今まで生きてきた中の”色んな事を聞いてきた。勿論まだ教えてくれねえ事だってあるが、本来の親のようだった奴の事や、こことは全然違うような文化の事…今まで出会ってきた大切な奴らとの別れが、何よりも苦しかった事」
俺には到底想像もつかねえような話だってあった。
それも、ふとした時に話されたってだけで、何百年もの間転生を繰り返して生き延びてきたあいつからしてみれば、ほんの一部の出来事にすぎない。
心を許せる仲間に出会った時が、何よりも嬉しくて、何よりも苦しくて辛くなる時。
何度も何度も、そういう奴らが死んでいくのを見届けた。
そして何度も何度も自分で死んだ…否、死のうとした。
それでも結局子供になって、記憶も体質も能力もそのまま受け継がれて、何度も何度も一人で泣いた。
それでも死ねない、どうやっても死ねない、死ぬ事をそれだけ考えても、どれだけ命が大切でどれだけ命の損失が容易い事なのかを分かっていても、自分自身が殺せない。
「あ、あんたは…それを知ったの、十四位の時だったんでしょ?なんでそんなに冷静でいられたのよ…なんで、そんな蝶をあんな風になるまでに変えることが出来たのよ?並大抵の方法と精神じゃ、そんな事なんか出来ないわ」
「…………まあとりあえず、よく分かってくれたとは思うが、あいつはここ最近で何度も殺されてる経験を持ってる。今でこそ白石蝶として死なねえようにってしてっけど、あいつが死ぬかと思っただなんて言って昔を思い出してることでもあれば、それは“実際に死んでたって事”だ」
自分が自覚するくらいには、声が低くなっている。
そんな事、させてたまるか。
あいつは自分の身に何かが起こったりでもしたら…あいつが苦しくて苦しくて仕方がなかったら、今でもまだ、俺に殺してくれというような目を向けてくる。
再会してからも、本気で殺気を出して怒りかけた事だってあったはずだ。
傷なんかならすぐに治るから、死んだってどうせ、死ねないんだから。
根本的な部分は、全然解決なんかしちゃえねえ。
俺に蝶を殺すだと?傷つけるだと?
んな事出来るわけがねえ、本人が一番望んでいる事だとしたって、俺は絶対にそれを許さない。
「…あんたが蝶を拾ったのは、偶然?」
「勘が鋭いみてえだな。俺が拾ったのは偶然なんかじゃねえ……今思えば最初っから、俺はあいつのもんだったよ」
