第6章 あたたかい場所
フイ、と顔を背けて控えめの声で言えば、皆がキョトンとした目を向けるのが分かった。
「ふ、不覚にもドキッとしちまった」
「いや、蝶ちゃん元々可愛いんだって」
「そうだったよ、中也さんいる時ってこうなるから余計に心臓に悪ぃ…」
「嫁に欲しい」
「『嫁!!?』」
バッ、と岡島君の方を向けば中也さんとタイミングがバッチリ合ってしまって、咄嗟に隣に座っていた前原君の制服をキュ、と掴んで背中に顔を隠した。
「なっ!?蝶!!?」
「お、おい白石!そういうことされっと俺が中也さんに…っ」
『な、なな何言ってんのよ岡島君っ…わ、私がお嫁?行けるわけないじゃないそんなの!!』
不意をつかれた。
暗い話なんか抜きにして、嫁に欲しいだなんて事を聞いたら恥ずかしくなって当然だろう。
頭の中にはもしもの中也さんとの結婚生活が想像されて……
『……ってあれ、私中也さんのお嫁さんになっても今と生活変わんなくない?』
「「「「ブッ!!!?」」」」
皆が一斉に吹き出した。
「お、岡島じゃなくて俺かよ!?」
『え、当たり前じゃないですか?中也さんが言ったんですよ?他の誰かのところにお嫁になんか行っちゃうのかーって』
キョトンと返せば皆して噎せ始める。
「ち、中也さん何言ってんすか…っゲホ、」
「ていうかそこまで言ってたんだ、なんかもう今度は中原さんに同情するレベル」
「お、おお俺が!?……え、まさか行かねえよな蝶!?」
『だから行きませんって』
うおおおお!!と中也さんがガッツポーズで喜ぶ。
あれ、なんかこんな光景見たことあるような気が。
「はい蝶ちゃんお待たせ。パフェだけど、溶けちゃうともったいないから一個ずつね」
コト、と目の前に大きなパフェが用意されて、キラキラと目を輝かせる。
スプーンも二本いるでしょ?持ってきたよと見事なスマイルを磯貝君は浮かべる。
『ありがと…い、イケメンだ……』
ルックスも性格も対応もオーラも、全てが爽やかでイケメンだ。
こんなイケメンとしか言えないようなイケメン、磯貝君以外に見たことない。
「…蝶」
何ですか?と中也さんの方を向くと、苺を乗せたスプーンをこちらに向けていた。
気分が良くて素直にパク、とそれを食べれば、満足そうな笑みを浮かべられた。
やっぱり中也さんが一番カッコイイんだなんて思ったのは、暫く秘密。
