第6章 あたたかい場所
潮田君の問に中也さんは肩をビクリと跳ねさせて、もう泣いてるんじゃないかというくらいに顔を青くして手で覆い始める。
私の向かいに座って顔を伏せている中也さんに何かを察したのか、皆苦笑いを向けていた。
『ちょっと中也さん、人聞きの悪いような事しないでくださいよ……拗ねますよ?』
「!!それは勘弁!俺が悪かったんですはい!!」
『よろしいです♪』
中也さんのへりくだりっぷりに皆唖然とこちらを見ていて、マジで何があったと口々に言っている。
『ちょっと中也さんがドジしちゃったんだよね~。私に散々意地悪して、馬鹿だのド天然だの鈍感だの言ってくれて、結局最後は中也さんがドジして馬鹿なことしちゃったんだよね』
「ああ!?だからお前が馬鹿でド天然なのは誰もが分かって…」
『てめ「俺が馬鹿でした!仰る通りでございます!!」』
てめ?と皆首を傾げつつも、かんっぜんに尻に敷かれてんなぁこの人という目で中也さんを見ている。
自業自得だ、私に意地悪したのも含めてまるっと反省すればいい。
「…俺がさっき色々やらかして蝶に鳩尾入れられて、咄嗟に手前って言っちまったんだよ」
中也さんが言った途端に、みんなの目が点になった。
「え?」
「手前って……え、それでこんな事態に?」
「中原さんってもしかして意外とチョロ「なんか言ったか岡島?」なんでもありません!!」
でも考えてみれば、確かに中原さんって蝶ちゃんには手前って呼んだことなかったよね?とカエデちゃんが話を戻す。
そしてそれにようやく気が付いたのか、他の子もそういえば、確かに、と頷いていく。
「E組の他の女子にだって手前とか苗字とかなのに、蝶ちゃんだけは蝶って名前で呼ぶか、お前ってちょっと崩した言い方だし…」
カエデちゃんの的確な分析に、中也さんが何を思い出したのかフッと笑って口を開く。
「こいつが俺と出会ったばっかの頃にな?手前って呼んでてもそれはもうビビってやがってよ。試しに名前呼んでお前って呼び方にしてやれば、すぐに俺んとこに擦り寄って来やがったんだ」
『ちょ、いつの話して!!?』
冷やかしや野次が入るかと思いきやみんな穏やかな顔をしていて、なんだか余計に一人だけ焦ってるみたいで恥ずかしくなってきた。
「今更だろ…つうか実はお前、別に今はもう怖くねえんだろ?」
『…………特別扱いなくなるの、やだもん』
