第6章 あたたかい場所
短く息をして呼吸も心臓の動悸も整えるように中也さんの首元に縋り付いていれば、それを見越していたのかさも当然のようにして撫でられた。
「…蝶、お前『ひゃッ…』……」
丁度耳元で喋られるせいで、さっきそこをずっと弄られてたから、中也さんの声に妙に敏感になる。
結局中也さんも私をギュッと抱きしめてから、声が耳に響かないようにか私の肩に顔を乗せて、話し始める。
「お前、昨日なんかあったか。話したくねえんなら無理には聞かねえけど…今日烏間さんから連絡が来たかと思えば、出たのはあの女教師だったんだよ」
イリーナ先生を思い出して、ピクリと身体が反応する。
なんて正直な反応をしてくれるんだろう、私の身体は。
「…んでまあ色々聞いたわけなんだが、何やらお前が俺に甘えにくそうにしてるって聞いてな?原因はよく聞かされなかったんだが俺にも思う所は昨日からいくつかあったし」
『!…昨日……?』
「お前、風呂から上がった時に目ぇ腫らしてやがっただろ。あと夜中になんかすっげぇ苦しそうに寝てたぞ」
そこまでは徹底してなかった…そんなところにボロが出ていただなんて、思わなかった。
「どう頑張って平気なふりしてたって、お前に何かあったらだいたい分かんだよ…変な芝居まで身につけて俺に隠そうとしてた事だから聞きはしねえが、甘えるときくれぇ素直になってもいいんじゃねえのか」
『……ん…ごめんなさい、中也さんのこと騙してて。嘘ついてて、ごめんなさい』
「謝んなくていいよ、お前が俺の事大好きなのは本当だって分かってっから。どうせそのへんを逆手に取ってあんな演技を身につけやがったんだろ?まああんだけ俺んとこに来てくれんのもいいが…俺はどっちかっつうと行く側だからな」
バレてた。
全部全部、見抜かれてた。
見抜いた上で、気付いてないふりをしてくれてたんだ。
『流石に寝てる時なんて気付きませんよ…っ、中也さん』
「だろうな、気になってちょっと間様子見で起きてて良かったよ。朝起きても何もねえようにケロッとしてやがるからどういう事かと思ってたがな」
普段ならそういう事があったら、真っ先に朝は中也さんに擦り寄っていくから。
夢の内容なんてなんにも覚えてなくて、昨日の夕方からずっとずっと憂鬱だったから、そんなの頭に浮かんでこなかった。
『中也さんは何でもお見通しだね』
「俺だからな」
