第6章 あたたかい場所
『…職員室でお話しても、いいですか?』
どこかで楽になりたかった。
嘘を吐かなくてもいい場所が、欲しかった。
たった数日のことのはずなのに…一日だって、しんどかった。
辛かった。
職員室に入って向かい合わせに椅子に座り、今の探偵社とポートマフィア、組合の戦いの事を伝える。
そして四年前に私を捕まえたのが組合のボスである事や、今回はどこかに引き渡すのが目的ではなく、私自身を狙っている事。
あと数日間の間、どこかのタイミングで組合が私を狙って総攻撃を仕掛けてくるかもしれないということ。
そこまで話し終えると、やはりイリーナ先生は驚いていた。
「それ…あのタコや烏間にはそこまで話してるの?」
『総攻撃を仕掛けてくるかもしれないというのは、昨日の夕方にここに一人でいた時、トウェインさん…前に壁を破壊した人に聞いたんです。あの二人には、前から何かが起こった時に皆を人質に取られないよう、逃がしてほしいと頼んであります』
「昨日?」
イリーナ先生の目が少し鋭くなる。
昨日散々一人で考えた事を、ゆっくりだけど、イリーナ先生に説明した。
探偵社もポートマフィアも、勿論椚ヶ丘も。
全部を大事にしたいから、今のいっぱいいっぱいな状態を崩すわけには、いかない。
「成程、状況が状況なだけに余計に言い出せなかったのね。…あの男には?」
途端に中也さんの顔が浮かび上がって、涙がぽろぽろと溢れてきた。
昨日嬉しそうにしてくれたのも、照れてたのも、私を撫でてくれたのも抱きしめてくれたのも、全部全部本物だった。
それを弄ぶような真似を私はしているんだ。
中也さんの優しさを利用して、騙しているんだ。
言葉が紡げない程に胸がキュウッと締め付けられて、フルフルと首を横に振ることしか出来なかった。
「あんた、なんでそんな…」
『言えない、ですよ…っ、だから騙して、隠して……私、中也さんの事裏切ってるんです……っ』
私が彼を好きで向けてる笑顔に嘘はない。
だけどそれは、ただのいつもの白石蝶であって、私じゃない。
イリーナ先生に涙を拭ってもらって、落ち着かせるように背中を撫でられる。
「あの男が絡むとどうしようもなく素直になるのね…本当に好きな相手に、そんな辛くなるような芝居なんてするもんじゃないわよ。あんたが壊れないか心配でならないわ」
素直になりたい…正直に、なりたい…
