第6章 あたたかい場所
話に区切りをつけて、ロヴロさんは潮田君に自身の必殺技を授けると言い、潮田君を連れて場所を移していった。
私を気にかけてかイリーナ先生がこちらに来てくれて、私もそちらを振り向く。
「あんた…零と何も無かったって言うけど、殺してそんな顔して……何かされたってわけじゃあないの?」
『はい、彼女からは直接何もされてませんよ…私と彼女との間には、何にもなかったんです。もう、何にもないんです』
「………私だって知ってるくらいに有名な殺し屋よ、零って。しかもあんた、六つの時にあの男に拾われたんでしょ。そんな小さな時に、もうそんな奴を殺せるようになってたの?」
肯定の意味を含めて苦笑いを浮かべる。
すると、イリーナ先生に突然、柔らかく抱きしめられた。
『い、りーなせんせ…?』
「…もう、殺しはやっていないのよね。血の味を覚えているのも、表の世界に来ようとするのも…光の世界を歩もうとするのも、全部全部、辛いでしょう。蝶の事を全て知ってるわけじゃないけど、その辺のことは私が分かってあげられるから」
私が殺しをしていたと知っていて、こんな事を言ってくれる人がここにいるだなんて、思わなかった。
そうか、イリーナ先生だってまだ二十歳だ。
この人が殺しを始めたのがいつかなんて知らないけど、年齢に見合わない経験と風貌を見ていれば…何よりも今の先生を肌で感じていれば、先生が殺しを重荷に感じていることなんてすぐ分かる。
私と同じで“普通”に憧れる、私と違って“普通の女の人”だ。
『…ありがとうございます、大丈夫ですよ。イリーナ先生も怖がらないで…殺しはやめたっていいんです。人は殺しをしていたって、誰かを救う事は出来るんです。やめても、救われる人はいるんです』
受け売りだけど、大切な言葉。
今の私も、イリーナ先生に救われましたよ。
なんて笑顔で返して見せれば、イリーナ先生もギュ、と返してくれた。
「まだ餓鬼のくせに、あんたが言うとなんだか説得力が違うわね…」
『フフッ、受け売りですけどね』
「そ。…それはそうと蝶、あんた今日はどうしたの?やけに朝から態度がわざとらしかったっていうか」
イリーナ先生に言われてドキリとした。
流石は世界屈指のハニートラッパー、芝居をする側はやはり違う。
私を受け入れて理解しようとしてくれるこの人になら、言ってしまってもいいのだろうか。
