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第6章 あたたかい場所


中也さんを好きな気持ちが私に嘘をつかせるスキルに育つだなんて、思ってもみなかった。

いつものように中也さんといて楽しくて、一日を過ごしているはずなのに…なのにどこか、今は淡々としている。
胸の奥で、私の存在の端っこで、私が白石蝶に押しつぶされている。

どこかで苦しいって、泣き叫んでる。

『……アホらし、』

訓練もご飯も終えて一人になれる時間…お風呂でシャワーに打たれながら、全部全部洗い流す。
名前に負けてる気分だ。

私が白石蝶なのに、蝶ならこうする、中也さんの前ではこうで、こういう時はああで、なんて。

なんにも考えないでずっと一緒にいてって言えたら、どれだけ素直になれるだろう。
どれだけ中也さんに嘘をついたらいいのだろう。

『無理だよ…後悔しないようになんて過ごせるわけ、ないよ……』

捕まらなければなんて、本当にそう出来るか私が一番不安なの。
一人で勝てる気なんて、全然してないの。

トウェインさんがあんな顔で私に教えてくれたんだ、思い出しただけでも嫌な想像が頭に浮かぶ。

捕まったら、中也さんは私を助けてくれるはず。
私が耐えれば大丈夫。

中也さんがいないほんのちょっとの間、私が我慢すれば大丈夫。

『…大丈夫………』

お風呂から上がって真っ先に指輪を首にかけて、癖が出ないようそっとする。
指輪を握るな、触るんじゃない…そこに白石蝶を、私を出すんじゃない。

深い呼吸を繰り返して、自分を落ち着かせて…押し込んで、追いやって、また淡々とした生活を始める。

『上がりましたー…』

「お、上がったか。カルマ、入ってこい」

「はーい」

髪を乾かしてくれる中也さんの手が、酷く優しいものに感じた。
優しすぎて、痛かった。

嘘吐きな私に触れる中也さんの優しい優しい手が、全部全部、痛かった。





夜は結局、私が眠たそうだからとか言って、結局キスはしなかった。
酷くホッとしたような…………どこかですっごく悲しかったような。

太宰さんからはメールで、明日安吾さんと交渉をすると連絡が入っている。

上手くいけば、私がこんな馬鹿みたいな芝居をしなくてすむ。
素直に中也さんに、甘えられる。

考えている事が馬鹿馬鹿しすぎて、自分を殴りつけたくなった。

なんて、自分勝手な奴…。

『じゃあ行ってきます!』

「中也さんもありがとうね、お邪魔しました〜」
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