第6章 あたたかい場所
今日連れていく気はないからと伝えられ、それに警戒心を解く。
流石にこういう時の人の嘘くらい見抜けるし、トウェインさんがこんなに必死さを隠そうとして言うんだ、嘘じゃない。
『状況が変わったって、組合はやっぱりまた作戦を立て直しているんですよね?探偵社の事務員さん達を捕まえるのに失敗して、お仲間が二人、軍警に捕まったとお聞きしましたが』
「あー、あれね…そっか、蝶ちゃんまだ知らなかったっけ。僕達ね、この国の法律には縛られないくらいの権限を持ってるんだ。ボスのお金の力なんだけど…要するに捕まった二人も、すぐに釈放されちゃうってわけ」
成程、と妙に素直に納得がいった。
ギルドは自身の長所を活かした、そういう戦い方ができるのか。
「うーん…あんまり驚いてないみたいだね、流石蝶ちゃん。でね?それでここからなんだけどさ。…組合はそろそろ、本気で蝶ちゃんや探偵社のタイガーボーイを狙って動き出しそうなんだよ」
『!椚ヶ丘に来るって事!?』
「その可能性もある。流石に作戦の細かいところはまだ決まってないし、知ってたとしても教えられない。でも、本気で蝶ちゃんを連れていく気だから……だから、あの男と後悔しないように過ごしていてほしい」
トウェインさんの態度はどこまでも真剣で、帽子を抱く腕がビクリと震えた。
『そ、んな…私連れて行かれるつもり、ないですよ?』
「うん、知ってる。でも僕らは法の外の存在で、どこかに拘留することすら出来ないような存在だ。そろそろ君を連れて行くための準備だって整いつつある」
数日中に、とトウェインさんは言った。
数日中っていつ?どのタイミング?
椚ヶ丘にいる時なの?
横浜にいる時なの?
『…行きません、から。それに、拠点がなくなって大変なはずなのに、なんでそんなに自信があるんですか?』
トウェインさんの目を見ると、覚悟を決めたような、私に申し訳ないというような、困り顔で私を見据えていた。
「ボスが、本気で動き始めたからだよ。…本人が遂に動き始める。僕だって、出来ることなら合意の上で蝶ちゃんに来て欲しい…けど、それが出来そうにないからお願いだ」
あの男と…中原中也と、後悔しないように過ごしていてくれ。
トウェインさんはそれしか言わなかった。
私を思っての行動だって、痛いくらいに伝わってくる。
『忠告どうも。でも私、行かないですから』
