第6章 あたたかい場所
「それならそこはおいといてさ、そもそもあの人が育ての親で俺らぐらいの年からお前を育て始めたって、何でなんだ?苗字も違ぇし、顔つきからして親戚ってわけでもないんだろ?」
近くに座ってた千葉君がそこを聞いてきて、どう説明しようか迷う。
事情を知る三人は私の方に目を向けるけれど、それくらいなら言っても別に問題はないだろう。
あれは辛い記憶でもなんでもなくって、運命的な瞬間だったから。
生きてきた中で一番幸せで、一番嬉しくって、一番に自分を出せた時だったから。
『…うん、私ね、物心ついてた時からどこかに捕まっててさ。両親なんていないし、ずっと周りに敵しかいなかったの。それでずっとそこで過ごしたらね?私が六歳くらいの時に、捕まってた檻がいきなり破壊されちゃったんだよね』
だいぶ重たいところは省いたり誤魔化したりして言ったつもりなのだが、周りを見ると衝撃を受けたような顔をしている。
…そっか、それが普通か。
「親がいねえって…その敵にずっと監禁されてたって事か?」
『うん、まあそんなとこ』
「六歳くらいの時にいきなり檻が破壊されたって、それ何があったんだよいったい…」
心配そうな顔をする皆に大丈夫だよ、と一言入れて、カルマ君の横に出て微笑む。
『…私の檻を破壊した人がね、私を拘束してた枷も、全部壊してくれちゃったの。敵の施設も、ほとんどの敵も、全部全部。たった一人で乗り込んできて、私が怖かったもの、壊してくれちゃった』
そこまで言うと、察しがついた子もいたのだろうか、強ばらせていた顔を少し緩める子がちらほらあらわれた。
『最初はまた敵なのかななんて思ってたんだけど、その人は私の事をそこから連れ出して、自分と一緒に生きろなんて言ってくれちゃったんだよね…名前なんてものもなかった私に、白石蝶って名前と、白石蝶の誕生日をくれたの。命の恩人…というか私に命をくれた人だよ、私の育ての親は』
今じゃあすっごい親バカだけどね、なんて言いつつも、何度思い返してみても幸せなあの日の記憶を思い出して顔が緩む。
思えばあの時から、心がじんわりとあたたかくなるのを素直に感じるようになった。
嬉しいという事を、知った。
好きという感情を、思い出した。
私の、私だけのヒーローなの。
私だけのお医者さんなの。
私だけの、大好きな愛しい人なの。
『やっぱりかっこいいの…中也さん』
