第6章 あたたかい場所
中也さんが私を抱えたまま歩き始めて、仮眠用のベッドに私を下ろそうとした。
しかしそこで私は、咄嗟に中也さんに回す腕に力を入れてしまって、中也さんが私を下ろせなくなった。
「蝶?とりあえず横にならねえといけねえんじゃねえか?」
『…っ、そ、ソファにして下さい』
「ソファに?まあいいが、狭くなんぞ」
小さく頷いてから、それを見て中也さんはソファの方に連れていって横にならせてくれた。
中也さんが私のことを気遣ってベッドに運ぼうとしてくれたのは嬉しい。
でも、あのベッドに今行ったら、恥ずかしさに頭がいっぱいになっちゃうから。
『ありがとうございます…』
「ああ、気にすんな。……で、なんで昨日寝れなかったんだよ」
『ひゃ、っ…!?』
中也さんの顔が至近距離にやってきて、反射的に声が出る。
すぐに口を手で押さえて背もたれの方に顔を向けるのだけれど、今ので完全に変な目で見られた。
「ち、蝶?」
というより、私が中也さんに近寄られて嫌になったのだと思ったのか、少し動揺したような声をあげられる。
『い、今のはそのッ…な、なんでもなくって』
やっぱり恥ずかしいのなんて言えっこない。
中也さんに顔を近づけられると昨日のキスばっかり思い出すとか、あのベッドを見ただけであの恥ずかしいのを身体が思い出してしまって仕方が無いとか。
「……お前、まさか昨日寝れなかったのって俺が原因か」
確信を持ったような中也さんの声にドキリとして、肩を一瞬ビクつかせた。
『ち、違うの…自業自得だから中也さんのせいとかじゃなくって……』
「違ぇことねえだろ?流石の俺でも今の反応見りゃお前が動揺しまくってんのくれえ分かんだよ」
悔しそうに言う中也さんは、何を誤解しているんだろう。
中也さんが私に何かをしたから寝れなかったんじゃないんだよ。
『…………は、恥ずかしかっただけ…です』
「は?」
くるっと身体も背もたれの方へ向けると、中也さんの間抜けな声が聞こえた。
『だ、だからっ…昨日色々されたの、恥ずかしくて…寝れなかった、だけ』
「…恥ずかし過ぎて?寝れなかった?」
確認を取るように聞き返す中也さんに小さく頷いて、唇をキュ、と結んで返事を待つ。
しかし返ってきたのは、返事ではなくて抱擁だった。
『ち、中也さん…?』
「悪い…謝らなくちゃなんねえんだが、可愛すぎた」
