第6章 あたたかい場所
中也さんと散々キスを交わした昨日の夜は、結局恥ずかしさで一睡も出来なかった。
恥ずかしい事ばっかりしておいた挙句本当に中也さんとあの直後に寝ることになって、心臓が煩くて煩くて、中也さんにまで聞こえてないかとかばかり考えてまた恥ずかしくなっての無限ループ。
それで眠いのをなんとか中也さんに悟らせないよう家を出て一日学校で訓練をする…というよりは烏間先生や皆のお願い通りに教える側に回るというのは、中々に気を張っていなければならないものだった。
ナイフ術も狙撃訓練も、そして体術も、クラス全員の分を見ながらここに合わせた指導をするというのは結構集中力がいる。
短時間で無理なく効率よくが私の方針であるため、目を逸らすことも神経を切らすことも出来ない。
『ん…あ、今のちょっと良くなってたよ岡野ちゃん、いい感じに身体能力活かせてきてる。片岡ちゃんはちょっと動きがかたいかな、もうちょい身体おっきく動かしてみよっか』
今はナイフ術の訓練で、烏間先生がよく標的になって、皆がバラバラに訓練しながら隙を見て襲いかかりに行くというものの真っ只中。
今日からは烏間先生だけでなく、私もその標的に加わって、アドバイスもする。
偉そうにこうしてみたら、ああしてみたらと言っているものの、驚くくらいに体の動きにキレがない。
お昼ご飯もちゃんと食べたのに身体重いし、何より暑さに頭がグラつく。
『……お、今度は寺坂吉田村松トリオかぁ…狭間ちゃんは他と組んでるのね。三人で息がピッタリ合えば強い武器になるよ~』
三人に囲まれて、ニヤリとらこちらに襲い来るナイフをかわし、腕を使って捌きもする。
体調が悪くてもこれくらいなら、能力なしでもなんとか対処出来る。
しかし思考力の方は、少々暑さと気怠さに持っていかれていたようで、狭間ちゃんが…寺坂組のもう一人が演技をしていただけだということにさえ、気付くことが出来なかった。
『っ!…暗殺って何でもありのこのルール怖いなぁ……』
たらりと汗を流して、身体に悪寒が漂う。
殺気を感知して第一撃を何とか避けたまでは良かった。
「そんだけ避けててよく言う…ぜっ!!」
村松君と吉田君が別方向からナイフを勢いよく刺してきたのを、重心を少しだけ傾けて避けた直後にそれは訪れる。
『っと…ッ、あれっ…何か、ヤバ……』
自分がかけた力を、支えられなくなった。
