第6章 あたたかい場所
『へっ…?』
「………気は抜いてなかったみてえだが、それでも驚いただろ。よく初見で腕使ってガードした、それだけでも上等だ」
二人のところに近付いてカルマに向かって言葉を述べる。
一応ここまでは予想通り。
昨日のうちに、自然と防御が出るレベルにまで反射速度を高めておいた。
じゃなけりゃ今頃、蝶の回し蹴りにやられて打撲ぐらいにはなっているだろう。
移動速度だって能力をなしにしても早い蝶の思い攻撃を、瞬時にガードして力を受け流す…上等だ。
「ち、蝶ちゃんっ、腕もげるかと思ったんだけど…?さっきの、蹴る角度変えてたら絶対俺壁の方まで吹っ飛ばされてたよね?」
『えっ、と…いや、あれっ、私そんなにびっくりされるほどの力なんて……っ』
なによりも一番困惑しているのは蝶自身。
そんなに自信のない様子を見ていれば、恐らくさっきの蹴りも、やはり全力のものには出来ていなかっただろう。
…こいつはどっちかっつうと気持ちの焦り……メンタルケアさえしておけば、やはり能力なんてものに頼らなくたって十分に強い。
「蝶、いい加減自分の頭を洗脳しようとしてんじゃねえよ。お前が強いことは…前より断然強くなってるってことは、俺がちゃんと分かってる。ここ最近は悪条件が重なってたってだけで感覚がおかしくなってんのかもしれねえが、お前は普通以上に……俺が認めるくれえにはちゃんと強ぇんだよ」
『!…精鋭部隊の人とでも、一対一でなら相手になる?ガタイのいい男の人にも…一対一なら、鷹岡にも負けない?』
ここで出てきた、鷹岡の名前。
やはりこいつが自信を喪失していた大きな原因はあいつだったか。
「そもそもお前がサシでやり合って勝てねえ相手なんか、うちじゃ俺くらいだろうが?俺は最初から、あんな野郎にお前が劣ってるだなんて考えちゃいねえよ」
「……あー、成程。中也さん本当に蝶ちゃんの事よく分かってんだね…俺の事鍛えながら蝶ちゃんまでもっと強くしちゃおうって考えてるっしょ」
カルマも気が付いたようだ。
蝶が強くなるには…いや、全力を出すためには、まず自信をつけること。
謙虚な性格のこいつだからこその弱点だ。
全力を出しさえすれば、こいつが負けることなんざ、悪条件が整わねえ限りは無い。
「少し違ぇな。蝶はこれから強くなるんじゃねえ…謙遜しねえで、ブレーキをかけずに全力を出せるようにするだけだ」
