第6章 あたたかい場所
『甘い物!?いいの!?』
ついついいつものノリで口から出てきた言葉だったが、こんなにもこいつに目を輝かされれば撤回もなにもしようがない。
「中也さん症候群て…だから持病としか言えねえのか……」
「な、成程…中原さんも大変……ですね、?」
「ああー、そうやって教育してんのね。餌付け?それとも愛情?」
「……く、っ…おう、好きなだけ食えばいいっ!好きなだけ食って好きなだけ甘えてればいい!!」
少しだけ涙混じりの声になりはしたが、愛らしい少女はキャッキャと楽しそうにして、更に俺に強く飛びついてきた。
蝶のご機嫌具合が増せば増すほど俺に甘えにくるため、それに比例して俺自身の機嫌も良くなり、更に蝶を甘やかすという無限ループ。
今回の俺の発言が相当嬉しかったのか甘味のせいか、今日の持病はなかなか治らなさそう…というより、俺が治してやれそうにない。
「……あれ中也さんが教育してんのか、中也さんがいいようにされてんのかどっちか分かんなくなってきたんだけど俺」
「悪い赤羽、俺もだ。でも一つだけ助言しておくとすれば、割と毎日あんな感じだぜ」
「毎日…想像以上だよ正直。つうか蝶ちゃんがあれを狙わずしてやってのけてるあたりがやっぱり蝶ちゃんだわ」
何なのだろうかこの中也さん症候群というものは。
可愛すぎやしませんか天使蝶さん。
甘えも手加減してくれねえと、俺がそろそろマジで悶え死ぬかもしれねえんですが。
『んー…中也さん今日いつもより優しい?いい事あった?』
「お前が甘えて来てくれんのが何よりの褒美だよもう」
『………あれ、でも何か女の人の香水の匂いする』
擦り寄る蝶が突然動きを止めてそんな事を言い始めるもんだから、再びピシャリとその場の空気が凍りついた。
「女の香水?…蝶、落ち着いてよく聞くんだ。俺はお前以外の女と密着するような事は一切していない、いいか?」
『でも電話してる時に樋口さんと銀さんもそこにいたよね?お昼…私のお手製愛妻弁当、同じところで食べてたんだよね?』
「部下を集めて食ってただけだっつの!何もやましい事なんかしてねえぞ!?」
驚く程に察しが良すぎて、いよいよ昼の事は話せなくなってきた。
ちょっとでもヒントを与えようものなら、頭のキレるこいつにならすぐにでもバレちまう。
『いつも女の人呼ばないのにわざわざ?…何してたの』
