第6章 あたたかい場所
良かった、本気で焦った。
蝶の中でただの変態の烙印を押されていなくて本当に良かった。
にしても何だよ、嬉しくって俺の外套着ちゃいましたとか。
天使か、そうだった天使だった。
『わ、っ……ち、中也さん?』
急に抱きしめたせいかよろけた蝶。
そいつの背中を擦りながら、自分の心も落ち着ける。
「おおっ、今回はタイミングばっちりでいい所だったんだね。いや良かったね中也さん、蝶ちゃんの事怖いくらいに褒めてばっかだったの聞かれてなくって」
『怖いくらいに…って、や、やっぱり私の話してたの!?何言ったの中也さん!!扉閉めなかったら良かった!!』
見事に話題を戻してくれてしまったカルマの方を向いてわなわなと肩を震わせる。
「な、何ってそりゃ……お、男の話だ」
『樋口さんいますけど』
「…………もっとお前が恥ずかしがってる顔が見てえって話」
『なっ…!!?』
これは少々狡い黙らせ方だったか。
なんて思いつつ予想通りの反応で大人しくなってもらえた上に、欲しかった反応がもらえて俺としては大満足なのだが。
カルマと樋口からうわぁ、というような目線を送られたのは見なかったことにした。
幻覚だ、幻覚。
しかしそれと引き換えに、蝶からのまさかの返しによって、先程まで恐れていた事態が現実のものとなってしまった。
『〜〜〜ッ、中也さんの親バカッ!親バカ通り越してもう変態!!』
ピシャリとその場の空気が凍りつく。
あのカルマでさえもが非常事態だと察知している。
「へ、へんたっ……お、俺がへんたっ、」
「落ち着いて下さい中原さん!中原さんが蝶ちゃんの事大好きなのは皆分かってますから!」
「姐さんそれフォローになってねえんじゃ…」
プルプルと震えていれば、先程俺にまさかの変態の烙印を押し付けた蝶が、俺の方に腕を回してきた。
『…………でも、嫌じゃ…ないです』
「……はっ?」
『……だから、嫌じゃ、ない…私の事自慢するのも、可愛いって言ってもらうのも、恥ずかしいけど好き。中也さんに褒められるの…嫌いじゃない』
口を開けたまま蝶の頭にポンと手を乗せれば、機嫌を良くしたのか俺にいっそう擦りついて来やがる。
おい、何だこの生き物は。
周りに目を向ければ、全員が同じような間抜け面を俺に見せる。
『えへへ、これも好き』
たいそうご満悦そうな少女を無心で撫で続けた。
