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第6章 あたたかい場所


静かに空間の境界がなくなって、こちらに一羽の白い蝶がスウッと飛んできて消えた。

蝶は誰がどう見ても分かるほどに挙動不審になっており、一向に俺と目を合わせようとせず、俺の目の前で何故か俺の外套を羽織って顔を真っ赤に染めてやがる。

かくいう俺はと言えば、先程までの会話を思い出して目の前の少女に話しかける事さえ出来なかった。

まて、隙間あいてたよな?
こいつが入ろうとした時にまた何か言ったってことだ、それは間違いねえ……どれだ!!?

ものによっては俺の生命に関わる!それこそ二度と蝶に口を聞いてすらもらえなくなんぞこれ!!?

頭の中の葛藤と焦りで顔に生気が無くなるのが自分でも分かり、蝶の方を呆然と眺める。

「あ、あのー…蝶?お前、何聞いた?……何か聞いたか?」
「蝶ちゃん、正直に言って大丈夫だよ、ここにいる全員加害者になる可能性もあるんだけど」
「ど、どこから聞いてたの?ちゃんと教えて、今度ケーキ食べに連れてってあげるから」

俺の代わりに蝶の質問が投げかけられて、蝶は顔を下に向けて、小さな鈴の音のような声を振り絞って言った。

『ち…、中也さんのバカッ………わ、私照れてなんてないから!!他の人の前で何言ってるの!?天使って何っ!可愛い可愛い言い過ぎッ!!!』

良かった、最後だけだったかだなんて一瞬ホッとしかけた。
しかし待て、俺は最後に一回しか可愛いとは言ってはいないはずだ。

「ち、蝶さん…っ、どれを聞いたのか教え…てくれませんか!!」

聞けばもっとブワッと顔を赤くして、涙を溜めて全員から目を背ける。

『い、一回目が誰かに同意を求めるみたいに可愛くねえか、可愛いだろ、俺マジでって…言ってるの聞こえて扉閉めました』

「おい待て、一回目ってなんだ一回目って、お前何回開けやがった」

ボソリと三回、と聞こえて、最後のとそれと合わせてあと一回だけ聞かれていたという事が判明する。

「…………それ、以外は」

覚悟を決めて、こいつに何を言われてもいいように心の準備を整える。

しかし蝶から放たれた言葉は予想もしていない部分で、その後に続けられた言葉に、俺はまた理性をぐらつかせられることになる。

『……私を見つけた時から、手放すつもりはさらさらないって。………えへへ、嬉しくって中也さんの外套着ちゃいました』

ふにゃりと照れたように笑う少女を再び抱きしめた。
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