第6章 あたたかい場所
樋口さんのいいですよねは、中也さんに対するもの。
「…もう蝶ちゃんは、中原君にたくさん伝えてきていると思うよ。樋口君の言うように、ちゃんと向き合ってあげるべきだ……二人共、お互いの事が何よりも大事なだけなんだから」
『へ…っ?』
広津さんの言葉に間抜けな声が出て、中也さんの方を向く。
ベストから手を離せば、こっちを向くなと言うようにして中也さんが私をグッと抱き寄せる。
少しだけ見えた中也さんの顔は、今までに見たこともないくらいに真っ赤だった。
「広津さん!?」
「ふふ、これ以上は教えないさ。安心してゆっくり…でも出来るだけ早くはっきりさせてあげたらいい」
「蝶ちゃん、何かあったらいつでも来てくれていいからね?同性じゃないと話せない事も多いだろうし」
『は、はい…っ?………でも私、中也さんから離れたく…ないです』
もう一度キュッとベストを掴めば、中也さんが目を点にして私を少し身体から離し、口をぱくぱくさせている。
広津さんと樋口さんはその様子を見てカルマ君と立原の方へと行ってしまい、何だか恥ずかしくなってきて中也さんの背中に腕を回した。
「!………やっと来てくれた」
『…それは私の台詞です………ねえ中也さん、私の事大事?何よりも大事なの?…一番なの?』
「それは…勿論、大事だ。じゃなけりゃお前のところに来てねえよ」
ギュッと腕に力を入れて、今までよりも言うのが恥ずかしかったけど、ちゃんと仲直りの言葉を紡ぐ。
『ん………中也さん大好き。大好きだよ…それだけなの、怒ってないよ』
「…俺は、悪かった。…あの後にお前の前にいたら、目が覚めても気絶しちまうんじゃねえかと思ってよ」
『一番いなくなられたら寂しいんだよ?…ね、いつになったら教えてくれる?私の事、本当にちゃんと見てくれてる?』
中也さんがまた背中と頭を撫でて、安心させるようにギュッとしてくれる。
「………後数日待ってろ、お前が沖縄から帰ってきたあたりでちゃんと話してやれるようにする。…ちゃんとお前の事、いつだって見てきてたさ。俺が意気地無しだっただけだ」
『…中也さん……?』
声をワントーン下げて言う彼は少しいつもと雰囲気が違っていた。
「何でもねえ。まだお前には我慢させることになっちまうが、後ほんの数日、待っててくれねえか」
『……うん、約束だよ』
「おう、約束だ」
