第6章 あたたかい場所
なんでごめんなんて言うのかは、分からない。
だけど、こんな風に取り乱す私と一緒にいてくれるカルマ君が謝る必要なんて、絶対にない。
「…………っ、!…蝶、ちゃん……?」
『謝らなくていいよ…誰かにこうされてないと今私、死んじゃいそうなくらいに寂しかったの。私の方こそ、ごめんね……?』
カルマ君の背中に腕を回す。
自分からすすんで中也さん以外の男の人に抱きしめ返すだなんてこと、普通はしてこなかった。
でも、今はもうそんな事考えてられないよ…
「…いいの?俺蝶ちゃんにこんな風にされてると、余計にちょっと中也さんにイライラしてくんだけど」
『いい。今は…誰かにいなくならなくていいよって、こうしててほしい。私がいてもいいんだよって……私が大事なんだよって、誰かにこうして欲しいの。こう、したかったの…』
カルマ君の腕に少しだけ力が入って、まるで中也さんがするかのように、背中と頭を撫でられる。
最初は肩を強ばらせていたのだけれど、次第に私のわがままに応えてくれるカルマ君に罪悪感と、安心感が芽生えてくる。
「大丈夫、中也さんだって大事に思ってる。俺もだけど…あの人はもっともっと、蝶ちゃんの事大事に思ってるんだよ」
『……ちょっと分かんなくなってきちゃった。私自分から、中也さんから離れてきちゃった』
「…じゃあ中也さんのとこにまた戻れるようになるまで、周りの人に頼ればいいよ。さっきみたいに蝶ちゃんだって勇気出したんだから。少なくともさっき見てた俺らは、いつでもこうやってしてあげられるから」
涙声でうん、と小さく頷いて、震える腕でカルマ君を抱きしめ続けた。
無償の愛が、欲しかった。
元々そんなものがあったのか無かったのかなんてもう、分からなくなってきてしまった。
心のどこかで…いや、そんなものよりももっと根本的などこかで、“中也さんなら”ってどこか甘え過ぎていたのかもしれない。
中也さんなら気づいてくれる、あの人なら受け入れてくれるって。
「蝶ちゃんっ…」
「蝶、お前大丈…夫、かっ……?」
少しして樋口さんと立原の声が聞こえて、ピクリと反応する。
私の信頼する人ばかりなのだ。
そのはずなのに、私とは…白石蝶とは違う、中也さんと同じ大人の人に顔を向けるのが、怖い。
わがまま言って、拒まれるのが怖い。
迷惑だなんて思われていないか、怖い。
__怖い