第2章 暗闇の中で
そして迎えた、蝶の修学旅行当日
「中原君!!仕方がない、こうなったら途中の駅で乗れるよう、先回りしよう!」
「了解です。ヘリですよね」
急ぐのも仕方がない。
五日分の仕事というものは、激務に追われるポートマフィアにとっては中々にハードなもので、今ようやく京都へ向かえるようになったところなのだ。
蝶達は既に東京で新幹線に乗った状態らしく、とても発車時間までに東京には間に合わない。
よって、ヘリを使って、手荒ながらも先回りをする事にした。
先回りは見事成功し、ヘリがついたのは駅の真上。
そこから、あまり周りに気づかれないようにするため、中原の異能で重力を操作し、静かに駅の屋根上に着地するポートマフィア一行。
ぎりぎり間に合ったようで、既に新幹線は停車しており、もう少しで発車するところだ。
「よし、乗ろうか。」
森が言った。
しかし、注意してほしいのは、ここでの乗るという意味はただの乗車ではないという事。
「了解です。俺は最後に行きますから、先に飛んでください。」
森、そして他の部下達が飛ぶ。
新幹線の屋根上に向かって。
中原も最後に飛び移った。
常人であればこのような事は出来ないだろうが、これもまた中原の異能のおかげで実現した手段だ。
異能で重力のベクトルを操り、一般人には目視する事が出来ないような速さで新幹線へと着地する。
そう、これが乗るという事だ。
中原の異能があればここに乗っていても何も支障をきたさないので、実現した事である。
「うまくいったね。残念ながらまだ蝶ちゃんは見れてないけど」
森が泣きそうな声で悔しそうに言う。
京都に着いたら見放題ですよと中原が言えば、大人しく我慢をし始めた。
うまくいった……確かにうまくはいった。
ただ、中原が乗り移った時、彼を目撃した者がいたのだ。
それが、赤紙の少年、赤羽業である。
“一般人には”目視出来ない速さだが、毎日マッハ20で動く超生物を見ていた彼には、一瞬だけだが“見えていた”。
「珍しいな、あんな真っ黒な人達…」
いちご煮オレを二本持ち、新幹線へと戻る赤羽。
座席に着いてから、赤羽は蝶とイリーナの会話を思い出す。
確か蝶ちゃん、盗聴機能と発信機付きの無線機持ってたような……
そして、ある仮定が彼の中に生まれた。
彼はしばらくの間、新幹線の天井を見つめていた。