第2章 暗闇の中で
事の始まりは数日前、太宰から渡された黒い無線機であった。
太宰と別れた直後、ポートマフィアの首領室へと走る中原。
すれ違う部下達は、中々見ることの無い、半年ぶりに返ってきた幹部が焦った様子で移動しているのを不思議そうに見ていた。
「……っ、首領!!失礼します!!」
「おお、中原君じゃないか…まずは西方の鎮圧ご苦労。そして何事だい、君ほどの人間がそんなに慌てて?」
首領の森の前で帽子を脱ぎ、跪く。
「はい、お陰様で、すぐに片が付きました。…すみません、急用……というより、頼み事がありまして。」
これを、と太宰から渡された黒い無線機を手渡す。
それを受け取り、森は首を傾げる。
「それは、捕えている太宰に指示されて奴の服を探り、渡されたものです。その無線機、会話機能は勿論、盗聴機能、そして……発信機の居場所が特定出来るようになっているもので、」
「太宰君が?…君にわざわざ渡すほどの物となると、蝶ちゃん関連のものなのかい?例えばその発信機とやらは蝶ちゃんに付けられているものである、とか」
流石すぎて驚いた中原。
森の頭の回転の速さにはいつも驚かされる。
「その通りです。なんでも、あいつは三月まで、防衛省からの依頼で中学校に通う任務の真っ最中だとかで」
「中学校かい!?それはよかった、私もあの子のことは学校に行かせてあげたかったからね!!ああ、制服とかすかぁとなんでしょう?可愛いだろうなぁ…っ」
まるで自分の娘…否、孫娘を溺愛して病まない親バカのような発言ではあるが、珍しい事でもなく、既に慣れている中原は話を進める。
「……で、明明後日より修学旅行で京都に行くんだとか。そこで、探偵社に邪魔されずに、何とかして蝶に会ってほしい、と」
「成程ねぇ。…よし、なら、今から五日分の仕事を終わらせて、急いで蝶ちゃんを尾行しに行こう!私も行くが、一番最初は君が会いに行ってやりなさい。」
「!!ありがとうございます!では、すぐに仕事を終わらせますので。失礼しました!」
勢いよく、活気に溢れた様子の中原に森は微笑んだ。
「やっと会えるんだ。君も蝶ちゃんも……短かったようで、本当に長かったね」
走って仕事に向かう中原の背中に森は呟く。
彼の頬には、一筋の涙が流れていた。
その姿は、最早ただの冷酷非情なポートマフィアの首領ではなくなっていた。