第6章 あたたかい場所
目が覚めて、私を包み込むあの暖かさが無いことに、真っ先に気が付いた。
『ん…っ、外套…………!』
自分の衣服が正されており、上に中也さんの外套がかけられていた事を確認する。
あそこがもう濡れていない事を考えると、中也さんが徹底的に色々と戻してくれたんだなと、ちょっと申し訳ないのと恥ずかしいのとで頭がいっぱいになる。
しかし中也さんが普段使っている仮眠用のソファを見た時、あるものがなくなっていることに目がいった。
中也さんが外していた手袋が、無い。
それから部屋中のどこを見渡しても、中也さんの脱いだベストやクロスタイ、チョーカーが…彼のお気に入りの黒い帽子が、無い。
どれくらい寝ていたのかは分からないけれど、途端にとてつもない不安感が襲い掛かってきて、早く中也さんに会わなくちゃ、早く彼の温もりに包んでもらわなくちゃと身震いした。
あんな風に…恋人同士がするみたいに、ちょっと歪な形だったかもだけどお互いの大好きを確かめ合った後なのに。
中也さん、私の事おいて出て行っちゃったの?
私の事、一人ぼっちにして、一人でどこかに行っちゃったの?
会うのは勿論、あんなことをした後だからすごく恥ずかしい。
けれどもそれ以上に、彼がいない事が恐ろしくてたまらない。
私のあんなところ見て、嫌いになっちゃったのかな?
あんな風にされて気持ちよくなってるの見て、気持ち悪いって思っちゃったのかな?
次第に目が熱を持ち始めて、泣くなんかよりも中也さんに会いに行こうと、自分を落ち着かせようと、扉を作った。
『…………よし…』
入る勇気が出なくて深呼吸して、意を決して少しだけ隙間を開ける。
その瞬間の出来事だった。
「蝶は、あいつは俺に懐いてるだけなんだよ!恋愛感情だとか、そんなもんを持ってるはずがねえだろ!!」
『……え、?』
中也さんの大きな声が聞こえた。
私が?
中也さんに、恋愛感情を持っているはずが、ない…?
一瞬頭の中が真っ白になって、そこからの会話は声が大きくなくて聞こえにくかったけど、ハッキリと最後にもう一度聞こえた。
「………あいつは、そういうんじゃねえからよ」
そんなわけないじゃない。
ずっとずっと、中也さんだからって言ってきた。
私が好きでもない男の人にあんな事、許すわけがないじゃない…
扉を閉めて、痛いくらいに目を腕で擦り付けた。