第6章 あたたかい場所
私から離した腕で私の涙を優しく拭って、抱きしめられる。
「お前、本当馬鹿だなぁ…っ、何でそこでキスとかまでにとどめておかねえんだよ……」
『…馬鹿じゃない。中也さん私の事大好きだから、大事だから、そういうの躊躇っちゃうんでしょう?………私の事ばかり優先するから、我慢して…煽るなって、言うんでしょ?』
トントン、と背中を撫でられて、中也さんがそこで手袋を外しているのが分かった。
「確かにそうだが、やっぱ馬鹿だお前は…お前のわがままにちょっとだけ甘えさせてもらうが、ちょっとだけだ。やっぱ蝶がちゃんと全部分かるようになるまでは、ある程度の我慢は必要だかんな」
『……っ、教えてくれないの?』
「あー…またそう言う……そこだけは許してくれねえか」
中也さんが私に甘えるだなんていうのも普通はない事で、その上こんな頼み方をされてしまっては仕方がない。
控えめに頷けば頭を掌全体を使って撫でられて、中也さんの素手が私の肩におりてくる。
「腕、抜け」
『ん…はい……』
上着の襟元を掴んではだけさせる中也さんの言葉に従って、上着を脱ぐ。
自分から脱いだのか中也さんによって脱がされたのか、どう表現するのが正しいのかは分からないけれど、上着を脱いだだけなのに胸がドキドキする。
中也さんの前でこうするだけで…こうされるだけで、やっぱり自分は彼のものなのだと、身体が勝手に認識する。
『んっ…んん、っ……』
中也さんから、同じ触れるだけのキスなのに朝とは全然違った長いキスを落とされて、全身が硬直する。
胸の前に無意識に腕を持ってきて肩を上げて、目をギュッと瞑って羞恥に耐える。
『んぅ……っ、あっ…中也さん!?』
一度唇を離したかと思えば彼は私を抱き上げて立ち上がった。
「ソファじゃちょっと頼りねえからな…幅がねえと、蝶が怖がっちまったらいけねえから」
『〜〜っ、怖がらないもん…っ』
はいはいと頭を撫でながら、執務室に完備されているものの中也さんが滅多に使う事の無い、本来の仮眠用のベッドに運ばれる。
そしてベッドに私をおろせば、ベッドの側のパネルで証明を操作して部屋を薄暗くし、執務室の鍵をガチャ、と閉めた。
それで初めて、またあの凄いのをするのかと再び緊張してきて、ベストやクロスタイやチョーカーを置いて戻ってきた中也さんをうっとりと見つめた。