第6章 あたたかい場所
中也さんの執務室の扉を三回ノックすれば、蝶か?と中から声がしたので、ドアを開けてひょっこり顔を覗かせた。
「…とりあえずこっち来い」
『……ん』
中也さんに促されたものの、先程あんな写真ばかりを見ていたせいか、何となく中也さんの方に行くのが気恥しい。
ついつい動きがぎこちなくなって緊張してしまうのだけれど、中也さんは執務室に戻ってきたばかりなのだろう。
外套と帽子を脱いで、椅子の背もたれに腰掛ける。
それだけでも何だか様になっていて…様にも何もただただ素敵なわけなのだけれど見とれてしまって、思わず目を背けた。
「さっきの件だが、まずお前、俺に対して何されてもいいだとか言うのは本当にやめておけ。他の奴らに言うのは勿論だが、俺だって抑えられなくなると困るから」
『!他の人になんか言わないですよ、私』
「…そう、だな。まあでも、俺にも言うなよ、本当にダメになっちまったら困んだろ」
中也さんの目の前の仮眠用で大きめのソファに座れば、中也さんが目の前に来てクシャリと私の頭に手を置く。
『……ね、中也さん。ダメになるのは、いけないことなんですか?』
ぽつりと呟けば、中也さんの手がピクリと反応する。
『何でも分かっちゃう探偵社の人が…大人の人が、言うんです。中也さん、我慢してるって。大人だからとか考えてかっこつけて、私の事何か我慢してるって』
「我慢なんかしてねえよ、何で俺が我慢なんかするんだ?」
『キス…だけじゃ済まなくなるとか、この件に関して煽るなとか………やめられなくなるとか。あれ全部、やめようってブレーキかけてるからそう言うんですよね』
中也さんの目が見開かれて、ツー、と一筋汗が流れている。
この人がこんなに動揺するだなんて珍しい。
『流石に私だって分かります。薬盛られたときのあれ…本の中身って、あれなんでしょう?キスの先って…中也さんがブレーキかけてるのって、ああいうのなんで「やめろ」…』
「それ以上言うな、怒るぞ」
『…嘘。中也さん怒ろうとしてない、何かに怖がってるだけ』
中也さんが怒ってる時ならちゃんと分かる。
だって中也さんが私を怒る時…それは決まって、私が無茶した時や中也さんのところからいなくなっちゃうような時。
心配かけた時や中也さんを悲しませるような時にしか、中也さんは私を怒らないし、叱らない。
「お前に何がっ…」