第6章 あたたかい場所
暫く呆然として、無機質な音の流れる携帯を耳に当てたまま硬直していれば、私とカルマ君の携帯が同時に鳴る。
少し遠くにいるカルマ君が先に取って、それに続けて私も電話を取った。
前原君が私が中也さんとの電話を終えたのを察知してかこちらに戻ってきて、電話の相手も確認せずにぼーっとした頭ではい、と電話を取れば、聞き覚えのありすぎる声が聞こえてきた。
「蝶!お前幹部に何言ったんだよ!?あんな取り乱してる中原さん初めて見たぞ!?後オーラが怖え!!」
『……あ、立原…っ?』
「そうだよ、昼飯食ってる最中に幹部にお前から電話が入ったとかで、出る時なんか嬉しそうな顔してたのに…今や俺の隣で血相変えて青くなってんのか赤くなってんのか分かんねえ顔で赤羽に連絡して「手前らうちの蝶に何教えてやがる!!?」…………っつう具合だ」
立原のと電話越しと、何故かスピーカーにしているカルマ君の携帯から同時に中也さんの怒鳴り声が聞こえた。
それに私まで肩をびくつかせてそちらを見ると、腕を組んで立っているカルマ君達の前に殺せんせーと岡島君が正座をし、顔を青くしてこっぴどく携帯の向こうの中也さんから怒られていた。
「あー、あれ…今カルマの方に中也さんから連絡入ってさ。中也さんからクレーム入ってんだよ」
『わ、私立原の携帯の方からも聞こえるから耳が…「大体担任!手前教師だろうが!?そんなんでいいのかよそんなんで!!何生徒の目の前でエロ本の立ち読みなんかしてんだああん!?教育に悪すぎんだろ教育に!!」あー…耳がぁ……』
カルマ君達から侮蔑の眼差しで見下されている二人は携帯電話相手に冷や汗をダラダラと流していた。
そこで、中也さんの発言とその様子に、私も立原も前原君も思うところがあったのだが。
「「教師がマフィアに正論で説教されんなよ…」」
二人が私の分まで代弁してくれたため、私は静かにしておいた。
「あああとりあえず蝶、幹部を何とかしてくれ!俺だけならまだしも他の部下が怯えて休憩にならねえ!!頼んだ!!」
ブチ、と電話が切られて、立原の表情が手に取るように思い浮かぶ。
普段から立原の扱いはこんなものではあるけれど、流石に他の部下の皆さんまでこれじゃあ可哀想だなと思うため、何とかしようと考え始める。
「どうする」
『全っ然思い付かない』
頭の中では、中也さんの言葉がリピートされていた。