第2章 暗闇の中で
「嫌な夢でも見たのね…ずっと何かに対してやだって言って、怯えて。」
『あはは…そんなにでしたか。すみません、迷惑かけてしまって。』
「迷惑なんかじゃないわよ。…そして、それと一緒にずっと“中也さん”って呼んでた。あんたにとってその中也さんって、本当に特別な存在なのね。」
『はい。あの人がいなかったら、今の私はここにありませんし…、ごめんなさい、少し御手洗に行ってきますね。』
そそくさと席を立ち上がり、車両を移動した。
今は、誰にも顔を見られたくない。
しかし、私についてきた人物が一人いた。
「中也さんのこと呼んでたみたいなのに、全然幸せそうな顔してないじゃん、蝶ちゃん。」
『……カルマ君?』
私が眠っていた時、丁度彼の座席からは私の顔が見える位置にあったらしく、私の様子の変化が気になって注意深く見ていたそうだ。
「ねえ蝶ちゃん。皆、中也さんのことを口にしてる時の、照れながらも幸せそうな蝶ちゃんを見てるとね?こっちまで幸せになってきて、明るくなれるんだよ。」
でも、と言葉を続ける。
「まだ、会えてないんでしょ?さっきうなされてた夢だって、きっとそれが原因の一つだと思うけど。」
『そう、だよ。中也さんと離れ離れになって探偵社に入るまでの間、私は毎日中也さんを思い続けてた。____じゃないと、私の中で、私が死んでしまうと思ったから。』
カルマ君は、何も言わずに聞き続けてくれている。
『私、本当は怖いものだっていっぱいある。人間不信に陥りかけてた時期だってあった。夢でそれをリアルに見せられて……今物凄く、死にたいくらいに、苦しいの。怖いの。』
ポロポロと、意図していないのに、涙は止まらない。
カルマ君には本音をぶつけられるからか、どんどん言葉が溢れてくる。
頭を撫でながら、彼は言った。
「そっかぁ。でも、俺は死んでほしくないなぁ、蝶ちゃんに。皆もそうだろうし。」
『……また、連れ戻されちゃうのかなぁ?この半年間で、中也さん以外の人のあたたかさも思い出せて、学校にも通い始めて…でも、あの人達は強いの。』
カルマ君に言っても分からないような事でも、全て伝える。
たとえ説明が足らなかったとしても。
『夢の中で連れ戻されちゃって。……私、中也さんに会う前に、またあんなところに戻らなくちゃいけないのかな、っ』
今は、ただ誰かに頼りたかった。