第2章 暗闇の中で
神崎ちゃんに買ってきてもらった、紙パックの紅茶。
お目当てのストレートだ。
『…なんか、紅茶飲んだら眠たくなってきました。』
「まだ現地につくまで時間はあるんだし、寝てたら?ほら、着いたら起こしてあげるし。」
「最近は色々と頼まれてもらっていたしな。今だけでもゆっくり体を休ませてくれ。」
イリーナ先生と烏間先生が気をつかってくれる。
ここは、素直に甘えることにしよう。
『では、お言葉に甘えて…』
隣に座っていたイリーナ先生に窓側と交代してもらい、壁に頭を預けて眠りについた。
____懐かしい場所に来た。
どうしてだ、私はここから脱出して、今は関係がないはず。
真っ暗で、実験用の装置が怪しく光る場所に私はいた。
体が動かない…否、動かせない。
拘束されている挙句に、私の大嫌いな条件が整っているこの場所では、能力を使う以前に恐怖で抗えなくなってしまっている。
暗いところも、大量に陳列されている“実験器具”の数々、大きな水槽も……私を取り囲む、大きな男の人達も。
全部が怖い。恐ろしい。
なんで?なんでまた、こんな所にいるの?
男の人達は、それぞれが実験器具を手に持ち、歪んだ笑みを浮かべながら私の方に寄ってくる。
「おとなしいな…遂にもう諦めたのか。」
クスクスと嫌な笑いがこだまする。
やだ、来ないでよ。“それ”嫌だ。
もう痛いのはやめて、お願い…
こんな時、自分ではもう、あの人に心の中ですがりつく事でしか自分を保つ方法が分からなかった。
助けて、助けて……っ、!
「そんな目で見ても、誰も助けには来ないんだよ。軍警もマフィアも、…勿論、君のナイト君もね?蝶ちゃん。」
私の名前、呼ばないで。
貴方達なんかに呼ばれたくない、
なのに、頭の中に延々と繰り返される、その人達から呼ばれる私の名前。
やだ、やだ、やめて…もう、呼ばないで____
「蝶!!!」
聞こえた声に、恐る恐る目を開く。
目の前には、心配した様子でしゃがんでいるイリーナ先生。
『……い、イリーナ先せ、』
「あんた、凄いうなされてたからつい起こしちゃったけど…」
そうか、夢…
あの場所からはかけ離れた、現在の私の居場所に安堵したのと同時に、頬から流れる液体に気がついた。
『あ、…先生、起こしてくれてありがとうございます。』