第1章 蝶と白
イリーナ先生の感情が高まっている理由は分からないが、嫌な感じはしないのでとりあえず大人しくしておいた。
「おはようございます!朝から元気ですねぇイリーナ先生…!貴方ですか、転校生というのは。」
突然響いた、謎の声。
イリーナ先生がその声に反応して離れたことによって、初めてその生き物を目にした。
『初めまして。今日からよろしくお願いします、殺せんせー。』
見た目は黄色いタコみたい……マッハ20で動くらしいけど、正直、私の能力なら速さなんて関係なしに相手は身動きがとれなくなってしまう。
成程、防衛省は、三月までに暗殺が完了しない限り、強制的に私によって殺させる気なのか。
護衛任務と見せかけておいて、実際は“保険”代わりであるということを今悟った。
「よろしくお願いします。お話はちゃんと伺ってますよ。さあ、そろそろHRの時間です!行きましょう!」
教室へ行く前に、一応伝えておかなければと思い、殺せんせーの触手を指でつついた。
『あの、生徒の皆には、私が武装探偵社の一員だとか、能力のこととかは言わないでもらえますか?』
「?勿論いいですが…」
『あと、私は極力、クラスの皆さんとは関わらないようにします。武装探偵社というだけで寄ってくる輩は、横浜以外でも沢山いるので。』
これはあまり言いたくはなかったのだが、護衛役の私が生徒をこちらの事情で危険に巻き込んでしまっては、護衛に来た意味がなくなってしまう。
『だから、私はクラスの皆さんからしてみたら、かなり嫌な人になっちゃうと思うんですが…急な仕事が入らない限りサボったり怠けたりしません!お願いします!』
「……分かりました。でも、先生は暗殺者たちだってものともしない超生物です。あまり貴方が気を負わなくても、生徒は先生が守ることだって出来るんですよ?」
そんなことは分かってる。
でも、
『それは、ただの人間ならの話になります。異能力者が絡んでくると、本当に取り返しのつかないことになるかもしれません。』
「その点につきましては、貴方にも協力してもらうことにしましょう。ただ、先生は、貴方にも楽しく学校生活を送ってほしいだけなのです。」
この先生は、人の形をしていないのにこんなにも人間らしいのか。
『…ありがとうございます。じゃあ、行きましょうか、教室。』
ここの先生は信頼出来そうな人ばかりだ。