第5章 新しい仲間と新しい敵と...ⅲ
「まあ、蝶が俺の事をどう思ってるかなんて細かいとこはよく分かってねえが……カルマ、一つだけ言っておく」
「何?」
後ろの席に振り向くことはせず、車を駐車してから蝶の肩を軽く抱き、大人気なくも渡さねえからなとばかりに独占欲を働かせる。
「手前の方こそ、俺がどんだけこいつに想い入れがあんのか、想像なんて出来ねえと思うぜ。蝶が手前がいいってんなら話は別だが…こいつが俺の事を一番だと言ってる限りは、誰の元にもやるつもりはねえからな」
カルマ自身がどう思ってるのかは知らねえが、あのクラスの連中の中に、蝶の事を狙っているやつなんかいたっておかしくはねえ。
俺の思い込みすぎならばそれが一番いいに越したことはないのだが、相手は他の誰でもない蝶だ。
こいつに一度甘えられでもすれば、理性がぐらついたって不思議ではない。
「分かってるよそんな事。正直言えば中也さんがそんなに蝶ちゃんのことそういう意味で好きだったなんていうのは予想してなかったけど、蝶ちゃんは中也さんと一緒にいなくちゃダメなんだからさ」
「……ああ。ま、今のごたごたが落ち着いてまたゆっくりした時にでも、蝶から何か聞ければいいんだがな」
「いや、だから心配しなくても蝶ちゃん中也さんの事大好きだから、告白しちゃっても大丈夫だってば」
「だっ、…から手前は!!蝶の気がそっちに向いてるかどうかってのをなあ!!?」
ませた事を言うカルマに言い返そうとつい大きめの声を出した時だった。
『ん、っ…』
俺の腕に収まっている少女がうめき声を上げて眉を寄せる。
それにビクリと体が大きく跳ねて、焦って…しかし蝶に変に気づかせないよう慎重に、腕を離して窓の方を向く。
頬杖をついて何事も無かったかのようにしらばっくれていれば、後ろの座席から笑いを堪えるようなカルマの声が聞こえた。
覚えとけよ、このませ餓鬼が。
『……っれ、着いた?』
「お、おう蝶、起きたか。丁度着いたところだったんだよ」
少しカルマと会話を交わしただけだ、嘘ではない。
『そ…ですか。帰ろ?』
小首を傾げてまだ寝惚けた様子のトロンとした目を向けられたのを横目で見、一瞬心臓が鷲掴みにされたような感覚に陥った。
ゴクリと喉を鳴らして一息置き、平気なふりをして運転席から降りる。
どうやらこの姫さんは俺の理性をぐらつかせるのが本当にお好きなようだ。