第2章 暗闇の中で
『それよりも殺せんせー、折角入っていただいたところですが、スペース空けてください。』
殺せんせーの大きな荷物を差して、烏間先生の座るスペースを作ってもらえるよう諭す。
「ああ、烏間先生…すみません、どうぞ。」
「いや。白石さんに感謝だな、国家機密。」
やけに国家機密を強調して言う烏間先生。
貫禄あるな、殺せんせーも肝に銘じたような素振りを見せてるし。
「ありがとうございました白石さん。おかげで先生助かりました。」
とこっそり私に伝える殺せんせーに、
『じゃあ今度、殺せんせーが見てきた中で、一番センスがいいと思った帽子屋さんに連れて行ってください。国内、国外はまかせますから。』
と、なかなか出来ないお願いをしてみる。
「いいでしょう。誰かへの贈り物ですか?」
『はい。渡せるかどうかは分かりませんが…その人、帽子が好きなんですが、仕事以外でも着用できるような帽子を渡したいんです。ついでに私もお揃いっぽいものでも買っちゃおうかな、なんて…』
少し照れくさくなって笑って誤魔化す私に、
「じゃあ、白石さんの分の帽子は、先生がプレゼントしましょう!」
と、嬉しいことを言ってくれる殺せんせー。
『え、いいんですか!?私、こう見えて結構貯金してるし、全然問題ないんですよ?』
「いいですよ。先生が、個人的にプレゼントしたいと思ったからですし。」
『ありがとう、ございます。』
「いえいえ、お互い様ですよ。」
この会話にはイリーナ先生も興味を示し、先生も一緒に行って選んでくれることになった。頼もしいな、イリーナ先生センスいいし。
私の能力の事から始まったこの会話は、クラスの誰にも聞かれることなく盛り上がった。
手元の黒い小さな機械に耳を傾け、新幹線の真上で佇む男が数人。
「〜〜〜何だよコイツ、いい奴過ぎんだろっ、」
一人の男は、黒い帽子を目深に被り、激しい悶えと心の中で戦っていた。
「良かったじゃないか。私も久しぶりに彼女の声を聞いて安心したよ。」
「幹部の異能のおかげで、新幹線の上だってのに風圧も関係なく過ごせてますしね、首領!」
その黒々しい集団は、首領の森鴎外と幹部の一人である中原中也率いる横浜ポートマフィア。
「まさか首領が来られるとは思っても見ませんでしたがね。」
部下の発言に耳も貸さず、幹部の中原は一人悶え続けていた。