第5章 新しい仲間と新しい敵と...ⅲ
「…まずは怖がらせて悪かった。……でけぇ声で怒鳴って、悪かった」
『!…大、丈夫ですよっ……怖くなんか、全然』
嘘つかなくていい、と、肩に回した腕にグッと力が入って、怖がらなくていい、怖がらないでほしいと気持ちが伝わってくる。
「俺、お前の事蹴りそうになって、一瞬心臓が止まるかと思ったんだ…それ位、お前に手を上げるような真似は、俺はしたくねえんだよ」
『……私、中也さんに勝てないから…中也さんに手を出そうとも思えないから、どうすればいいかわからなかったの』
「次から何かあったら、デカい声出して俺の名前を呼べ。お前の声なら絶対気付くから俺は」
だから、と。
頼むからと、また中也さんの声が揺れる。
「自分の事を軽く見るな…俺にお前を、傷つけさせるな」
『!そうだ、中也さん足が!!』
「俺の足なんかどうだっていいんだよ。お前の事を蹴るくれえなら、足の一本くれえ無くしたって構わねえ」
さっきも言われていた。
足なんて、どうだっていいって。
『ダメだよ、私が苦しいじゃない…っ、どうやって止めたの?何で止めれたの?』
中也さんの方を振り返って目を見て言う。
「……俺と同じ気持ちが分かんなら、二度と俺の攻撃を受けようとなんかするんじゃねえぞ。何、異能で重力のベクトルを操作して、無理矢理抑え込んだだけだ」
『!!…それ、負担が……身体が耐えきれなくて、血が……?』
「汚濁を使うよりどうってことねえさ。お前が無事で、良かった」
汚濁、中也さんから発せられたその単語に耳を塞ぐ。
『あんなの、もう使わないで。私あれ、嫌だ…無茶しちゃ、だめ』
「お前がいうなっつの。第一糞太宰がいなけりゃ使えねえんだ、安心しろ」
『ん…』
中也さんの腰元からサバイバルナイフをテレポートさせて取り、手の甲を一思いに切りつける。
中也さんにバレないよう、声を漏らさないよう唇を噛んだ。
サバイバルナイフをまた移動させて傷口が塞がるのを待ち、少し多めに溢れさせた自身の血液を口に含み、唾液で体積を増やす。
「…っ、蝶……?……!」
両手を中也さんの頬に添えて、中也さんの顔を少しだけ俯かせて下からキスをした。
だけどここで初めて気が付く。
私が下にいて首を後ろに傾けてたら、中也さんに血を飲んでもらえない。
恥ずかしいけど、膝を立てて中也さんよりも上からキスを続行した。