第5章 新しい仲間と新しい敵と...ⅲ
「いったい何がどうなって……あんた、蝶の知り合いなのかい?」
与謝野先生の声で我に返って、ようやく中也さんの顔を見る。
中也さんは怒っているのに、なのに泣きそうな表情を私に向けていた。
『違う、私、中也さんに怪我させるつもりなんて……』
怒られているところとは関係ないのに、それが頭では分かっているはずなのに、中也さんの怪我した足にばかり思考がいく。
頭を抱えて目を見開いたまま、血の気が引いていくのが分かった。
身体の震えが止まらない。
中也さんに蹴られた時を想像してみての恐怖なんかよりも、彼の身体を傷つけてしまった事が一番自分の中ではショックな事だったから。
「白石さん…?あの、なんだか様子が……」
賢治さんの心配する声ですら、どこか遠くで聞こえていた。
「怪我!?んなもんどうだっていいんだよ!!答えろ蝶!!」
『ひ……っ…』
どうだっていいと、私に返答を要求する中也さんに身体をビクつかせる。
『私は、蹴られても…すぐ、直る……からっ…』
「!!…お前の意思だったんだな?誰かにやらされたわけじゃ、ねえんだな?」
何故中也さんがそんなことを聞くのかは分からなかったけれど、探偵社の皆がそんな事を私にさせたりはしない。
コク、と小さく頷くと、中也さんは上げていた方の足を下ろして後ろに隠し、私の肩に手を置いたままズルズルとしゃがんでいく。
「勘弁してくれ…心臓に悪すぎるっ、頼むから俺にそんな事はさせないでくれ……!頼むからっ…」
『でも、こうしないとって……』
「…………探偵社ァ!!」
私の肩から手を離して再び立ち上がり、賢治さんと与謝野先生に鋭い目を向ける。
二人や監視カメラの奥の乱歩さんと社長に向けて出された声なのに、私までもがビクついてしまう。
「聞きてえ事があるんならとっとと聞け…今回は仕方ねえから、こいつに免じて教えてやる」
中也さんが私の頭にぽんと手を置いて、監視カメラを見上げる。
もう怒ってはいないと、伝えられている行動だ。
「…じゃあ聞かせてもらおう。組合の構成員を何で釣った?」
「……手前らんとこの事務員共だよ」
「何だって!!?」
組合の構成員を釣った、探偵社の事務員で…中也さんから放たれる言葉を整理していくと、探偵社の事務員さんを餌にして組合を誘き寄せているらという一つの答えに辿り着いた。