第5章 新しい仲間と新しい敵と...ⅲ
ざわつく皆を気に止めることもなく、すぐに外に出て扉を作る。
状況がどうなっているのかが分からなかったため、また少し高めの位置に扉を作った。
そしてそれを開いて中の様子を見る…そこまではよかった。
『…え……っ』
その光景を見た瞬間に、乱歩さんの言ったごめんねの意味が分かった気がした。
小さく隙間を開けて覗き込んだそこでは、与謝野先生と賢治さんが敵と対峙していて、賢治さんが地下線路を素手で持ち上げて、敵に向かって振りかざしていた。
敵はそれを避けて壁にめり込んだ線路の上に飛び乗り、その上を走って賢治さんの頭を目掛けて蹴りを入れ、賢治さんはそのままの勢いで壁にぶつかる。
出血がないのを見れば、壁にヒビが入っているものの賢治さんは異能で無事なんだということが分かり、一息つく。
しかし問題はそこではない。
乗り込んできている敵の方が……その人物が、問題なのだ。
その人は与謝野先生の攻撃を避けて天井に逆さ向きに立ち、なのにも関わらず被っているその黒い帽子も、羽織っているその黒い外套も、落ちては来ない。
見間違いであればよかったのに、それを見ればもう確信を持たざるを得なかった。
「その異能……あんた、重力使いの中原中也だね!」
与謝野先生の声が頭の中で反復される。
中也さんは天井から地面に飛び移って、私に気付かず口を開く。
「さあ、重力と闘いてえのはどっちだ!!」
「答えよ、ポートマフィアの特使」
監視カメラから響いた社長の声に、中也さんは異能を解除する。
「この件で、ポートマフィアはどう動く」
話についてはいけなかったが、動くまでもねえよと言う中也さんの声や雰囲気に、私にまで嫌な汗が伝う。
そうだ、私は武装探偵社の社員。
いくら中也さんが、首領が、太宰さんや社長が気にしなくていいと言ったって…立場上、敵であることに変わりはないんだ。
それ以上の事を探偵社に教えるつもりがないのか、中也さんは与謝野先生を横目に見て狙いを定める。
ダメだ、中也さんのあの目に捕えられ、標的にされてしまったら。
反射的に身体が動いて、与謝野先生に向かって動き出そうとする中也さんと与謝野先生の間に
『……やめてっ!手、出さないで!!』
「蝶!?あんたいったいどこから!!」
中也さんの足が振りかざされようとしている場所に、両手を広げて割り込んだ。
「蝶…?」