第5章 新しい仲間と新しい敵と...ⅲ
『ちょっと待って太宰さん、私無茶なんてしてない』
むくれて言えば、中島さんからもえっ、と声が上がる。
「いや、蝶ちゃん壁使うのに体力消耗するって聞いてたのに、ついこの前あんなに使ってたし…結構前に谷崎さんとナオミさんの傷だって肩代わりしてなかった?」
『無茶なんてしてませんし、そんなの無茶の内になんか入りません』
ええ、と困惑した中島さんにも頬を膨らませてむくれる。
無茶なんかじゃない、私が死ぬような事はしていない。
「でも、もしあいつがいたら絶対に止めているはずだ。分かっているのだろう?」
『……あの人は心配症がいきすぎなだけで』
「あいつが止めれば、君はちゃんとあいつの言う事を聞くだろう」
『…っ、太宰さんずるいよ……私がそう言えば否定出来ないの知ってて言うなんて』
「ね、御目付け役だろうあいつは。……とまあ敦君、こんな感じなのだよ蝶ちゃんは。可愛らしいだろう」
ふふっ、と本当に楽しそうに中島さんに笑いかける太宰さんの鳩尾に思いっきり拳を入れる。
「ぐふぉっ……!!?ち、…蝶ちゃ、今のは……っ」
「太宰さん!!?」
『わ、私の事からかわないでって言ってるでしょう!?全くもう…』
まだ肩にかけられている太宰さんの外套を頭から被って身を包み、椅子の上で身体を縮めて顔を隠す。
中也さんのせいで暫く可愛いなんてワードには敏感なのだ、勘弁してください本当に。
こんなに騒いでいたからか、寝台で眠っていた紅葉さんが眉を潜めて、すっと目を開いた。
それにいち早く気づいた太宰さんが、雰囲気を一変させて話しかける。
「やあ、姐さん。ご無沙汰だね」
「確かに久しいのう、裏切り者よ」
紅葉さんは太宰さんの外套にくるまっているのが私だと気付いていないのだろう、淡々と太宰さんと会話をする。
中島さんは鏡花ちゃんの事で思うところがあったのか、ずっと紅葉さんの方を睨み付けている。
「童、鏡花は無事かえ?」
「…鏡花ちゃんは行方知れずだ。貴女のせいだ」
中島さんが言った途端に、紅葉さんから笑いがこぼれる。
「ふ、…ふふっ、ふふふふ……!」
今度は中島さんがそれにカッとなって、先程の私と同じように怒りを顕にして紅葉さんに掴みかかろうとする。
腕だけ虎化していたため、流石に危ないと思って身体が動いた。
『やめて中島さん…っ』
体に痛みは来なかった。