第5章 新しい仲間と新しい敵と...ⅲ
仮眠室の寝台で眠る紅葉さんの近くに椅子を持ってきて腰掛け、紅葉さんが目を覚ますのを待つ。
太宰さんの入れてくれた温かいお茶を少しずつ飲みながら待っていると、中島さんが入室する。
何やら、一緒にその時までいたはずの鏡花ちゃんが見当たらないらしい。
『中島さん、大丈夫ですよ。鏡花ちゃんだって強いんですし、何なら私が見に行く事だって出来ますし』
心配するなとは言えないけれど、鏡花ちゃん一人なら、ポートマフィアからは勿論組合からも狙われる可能性は大いに低い。
それに私が能力を使って見に行く事だって出来る…本人が一人になりたくて行方を眩ましているのだろうから、不用意にそんな事はしないけれど。
「…その人は、鏡花ちゃんが夜叉で自分の両親を惨殺したって言っていた。そして鏡花ちゃんには殺しの才能がある、所詮は殺しの世界にしか生きる事が出来ないって」
『そんな事、ないよ。中島さん、鏡花ちゃんが戻ってきたら、目の前ではその話をしないようにしてあげて?あまりいい思いはしないだろうし』
太宰さんは中島さんをじっと見据えて、会話を静かに聞いている。
まあでも、ここまでくると流石に中島さんにも話したのかな。
自分が元ポートマフィアの最年少幹部だったってこと。
「僕はそれを聞いて、なんて言ってあげればいいのか分からなくなって……っ」
悔しそうに、しかし頭が混乱しているような中島さんの様子を見ていれば、嫌でも分かってしまう。
こちらとあちらでは、見ている景色も価値観も、想像つかないほどに違うものだ。
彼は、私が元々殺しをしていたという事を知れば、怖がってしまうだろうか。
離れていって、もう私の事を嫌いになってしまうだろうか。
『うん、でも鏡花ちゃんはそんな中島さんを見て、顔や態度に出して動揺していたでしょ。驚いていたし、怖がってたでしょ』
鏡花ちゃんの性格を考えれば簡単に分かることだ。
三十五人殺しで自分の命を絶ってしまおうとするような、純粋なただの女の子だもの。
『中島さんにそんな風に反応を見せているだけ、殺しの才能なんてその程度のものなんだよ。ただの、普通の女の子だから』
「蝶ちゃん…?何でそんな事を君が、」
もう太宰さんが言ってしまっているのならば、私だって隠す必要、ないよね。
『……私は元々殺し屋ですから。そして、太宰さんと同じく元ポートマフィアの人間です』