第5章 新しい仲間と新しい敵と...ⅲ
なんとなく医務室にいれる気がしなくて、事務室の自分の椅子に腰掛け、デスクにうつ伏せになる。
薄々思っていた事だ。
確かに護衛任務…それに国家機密級の依頼なんて、それを優先するに越したことはない。
でも、私がしているのはただの学園生活だ。
皆必死になって生き残ろうとしているのに、私一人がこんな事でいいわけがない。
私がいたらギルドからの攻撃だって防げたかもしれない、皆を避難させられたかもしれない。
「蝶ちゃん、お疲れ様。君のおかげで皆無事に助かる」
コト、と私の湯呑みが頭の先に置かれ、背中に大きな外套がかけられる。
そして太宰さんの声が響き、彼がしてくれたのだと理解した。
『……私、何もしてないです。何も、出来てません』
「そんな事ないよ、君は自分の役割をきちんと果たしてくれている。その上今日は皆の危機にまで駆けつけてきてくれたじゃないか」
『私の役割って何なんですか…護衛任務?やめるわけにもいかなくって自分にそうだと思い込ませて学校に行きました。でも、仲間の有事にそこにいないで、何が……っ』
悔しい気持ちと情けない思いが溢れて止まらない。
何が能力持ち、何が探偵社…何が仲間だ。
狙われるだけ狙われておいて、皆に心配事を増やすばかりじゃないか。
誰も助ける事なんて、出来ていないじゃないか。
「…組合の刺客から敦君と谷崎君、それに賢治君やナオミちゃんに、その他大勢の一般人を救うために闘ってくれたのは蝶ちゃんだろう。それに他の皆は知らないけれど、君がその日、もう一人の異能力者を落とすのに一役買ったんじゃないのかい」
『それは、マフィアが…中也さんが危ないと思ったから。離れたくなかったから、怖かったから』
「君はそう言うけれど、それと同じように谷崎君と敦君にも思ったのだろう?だから壁まで使って、相手を確実に倒せるようにって考えたんじゃないの」
背中をさすって隣の椅子に太宰さんも腰掛ける。
『あの日はたまたまですよ。ねえ太宰さん、お願いします。何か重要な作戦が……私が役に立てるのなら、すぐに私を呼んでください』
「ふふ、今日もちゃんと呼んだだろう。それに学校に行ってもらっているのだって、ちゃんと探偵社の為じゃないか。それこそ、たまたま攻め込んできたやんちゃな相手が組合だったってだけさ」
頭を撫でる手から、太宰さんの優しさが身に染みて伝わった。