第2章 暗闇の中で
京都の下見も無事終わり、何時でもどこからでも、班員のもとに駆けつけられるようになった。
まあ、実際のところ、目的の人物さえ思い浮かべれば扉は創れる。
それでも下見に行ったのは、念のため。
もしものもしもに備えて、抜かりなく準備しておかないと、いざという時に困るしね。
学校では、殺せんせー特製の分厚い辞書……もとい、修学旅行のしおりが配布された。
皆重たいと言って、修学旅行当日に持っていくのを避けようとする子が大多数だった。
神崎ちゃんに至っては、わざわざ日程をまとめ直して用意している程。
ああ、私は勿論持っていきません。潮田くんが持っていってくれるので。
そして迎えた修学旅行前日の夜。
探偵社の皆さんからは、いってらっしゃい、楽しんで!など、嬉しい言葉をかけてもらえた。
鏡花ちゃんとやらも目を覚ました様子で、国木田さんと中島さんが様子を見るらしい。
皆に送り出して貰えたのはいいものの、今日ばかりは、考えるのは太宰さんの事。
不法侵入ではあるが、彼の部屋にお邪魔もしてみた。
そこには予想通り本人はおらず、まるで太宰さんがいなくなってしまったような、寂しい空間を作り出していた。
『…太宰さんにも、行ってきますって言ってこればよかったな。』
ぽつりと呟いた言葉も、小さくこだまして消えてしまう。
結局、太宰さんはまだポートマフィアから脱出してはいないのだ。
出来ることなら、今すぐにでも彼をポートマフィアから連れ出してしまうところなのだが、首領や芥川さんあたりに見つかると非常に厄介なので、太宰さんに言われた通り手を出さずにいる。
『…………、あ。』
修学旅行の用意を終えてぼーっとしていると、太宰さんから渡されたものを思い出した。
無線機。
もしかしたら、太宰さんは私の行動を図るため、盗聴機能でも仕掛けているかもしれない。
布団を敷いて、寝る準備を整えたところで、無線機を両手で握りしめて一人、もう一度呟いた。
『太宰さん、蝶です。明日から修学旅行、行ってきますね。楽しんできます!』
出来るだけ、元気に振舞った。
そうすれば太宰さんも安心してくれるから。
無線機からは何も聞こえない。
私の声が聞こえたのかどうかは分からないが、届いている事を願おう。
「___行ってらっしゃい、蝶ちゃん。」