第5章 新しい仲間と新しい敵と...ⅲ
車に運び込まれて、何も言っていないのに助手席のシートに座らせてもらえ、心が満たされつつもしっかりとした背もたれに安心した。
先程かなり柔らかめに中也さんからデコピンを受けたおでこを押さえて、むくれたように窓の外を向いていた。
中也さんが運転席に乗ってからは、彼も持病が発症したように、口を開けば私の事ばかり。
「今回無理をしなかったのはいい。でも、血が不足してるって身体が感じ取るくれえにはちょっときてんだろ。学校行く前に鉄分補給ちゃんとしてから行け」
『鉄分補給…ってまさか……っ』
「サプリ」
『嫌!!』
鉄分補給と称して…いや本当にそうなのだけれど、私の天敵である薬を取り出す中也さん。
カプセルのように分厚いオブラートで包まれたものならともかく、上手く水だけで粒の薬を飲み込めない私は、口の中がとてつもなく苦くなる薬が大っ嫌いだ。
「しょうがねえだろ、またなんかあった時に使わなくちゃいけねえかもなんだぞ。それにお前、自分の戦闘中だけじゃなくて俺にまでかけていきやがっただろ」
中也さんの言葉にギクリとした。
組合の強さや異能を詳しく知らなかったため、念の為にと鎧のようにして壁を張っていたのだ。
「ほら、四粒だ。頑張れよ、人間が飲むもんだ安心しろ、お前でも飲める」
『何で常備してるの中也さん!私絶対飲まないからね!!』
「どうしても飲まねえってんなら無理やり飲ませるしかねえんだが……そんなに俺に口移しされてえか?」
口移し。
そんなの、聞いただけでも顔から火が出るほど熱が集まる。
そんな事…しかも四粒だから四回もなんて、私の心臓がもたない、無理。
「…な、だから自分で飲め」
『………ゼリー欲しい』
「ああああ分かったよ!仕方ねえな!!」
結局中也さんの方が少し折れてくれて、近くのコンビニでゼリーを買ってきてくれ、それで薬を難なく摂取する事が出来た。
どうしても薬を飲みたがらない私に中也さんが苦肉の策として教えたこの方法は、私が唯一粒の薬を飲もうと思える条件だ。
『何気に白桃ゼリー選んできてくれるあたり、中也さん本当に私の事甘やかしてるよね』
「た、たまたまそれ以外が売り切れてたんだよ!……ほら、今日は一緒に昼飯食ってから行け。さっきまで働いてたんだ、ちょっとくらいいたって大差ねえだろ」
彼の小さなお願いに、勿論満面の笑顔で返事した。