第5章 新しい仲間と新しい敵と...ⅲ
「探偵社も組合も、敵対者は徹底的に潰して…………殺す」
首領の声が酷く頭に響いたが、この言葉をそのまま受け取ってはいけないということを私はよく知っている。
探偵社の名前も出されてはいるが、まだ探偵社は直接的な損害をマフィアに対して与えてはいないからだ。
受けた暴力は返さなければならない。
しかし、まだ探偵社からは暴力を受けていないのであれば……首領が中島さんを、探偵社の皆をただの害になるものとして認識しなかったのであれば。
…………私の願うように、二つの組織が一緒になって組合と戦ってくれるのなら。
まだ、大丈夫…心配しなくても、私がきっと皆を死なせない。
首領は私の考えてる事なんてお見通しかもしれないけれど、それでも私を殺す素振りを見せないのを見れば、一つの手段として考えていないわけでもなさそうに見える。
「では諸君、任務御苦労。明け方からだし、少しの間でも身体を休めてくれ…拠点に戻ろうか」
首領の声で車が用意され、それに黒服さんと黒蜥蜴の三人が乗り込み、車が出ようとした。
しかし首領は中也さんを車に呼び、何かを伝えてから車を出す。
車が行ってしまってから、中也さんはガシガシと頭をかいて勢いよく私の方を向く。
そしてなんにも言わずに無言でずんずんとこちらに歩いてくるため、纏うオーラやその雰囲気に気圧され、思わず後ろに後ずさろうとした。
『っ、…ぁ、れ……』
しかし立ち上がった瞬間に目眩がして、頭に血が行き届いていないかのようにクラりとする。
「!蝶!!」
ふらついて脚を何とか立たせていようと地面に二度三度よろめけば、中也さんがすぐに支えに入った。
『え………!っ…!!』
中也さんが私の事を心配してそうしてくれたのなんて分かってる。
でも、朝に中也さんにしかられたのがまた頭の中に思い浮かんで、意味もなく身体に力を入れてしまう。
「……朝は怒鳴って悪かった。立原から聞いたのは置いていかれたからとか、お前に頼ろうとしなかったからとかだったが…………お前、俺の事心配して来てくれたんだよな」
『!!』
抱き寄せられて、立ったまま中也さんの腕に包まれる。
『なんでっ…私、そんな事一言も!』
「分かるさ。緊急事態だって時にお前に詳しく話さず一人で出て行っちまった俺の事が、心配だったんだろ」
素直に言えない私の声を、彼は代弁してくれた。