第29章 白と蝶
並の会場では、来客数が多すぎて入れないために、質だけでなく規模も重視したものとなった。
ただでさえ知り合いや世話になっている人が多い挙句…今回はなんと、異世界からも大量に蝶の晴れ姿見たさに、来客がある。
受付を手伝ってくれたのは元E組の生徒達…そして超生物、殺せんせーこと元死神。
中学時代に面識のあった暗殺者も多く、それなりにグレーな来客層だ。
今日という日ばかりは、指名手配犯でさえもが無礼講扱い。
防衛省の権力半端ねぇ、さすがは烏間さん。
誓いの儀式のために、純白に染まった彼女が、俺の元へと…一筋の道を通って、歩いてくる。
隣で腕を組んでいるのは、正装に合わせて身なりを整え、別人のようにエスコートをなんなくこなす、浦原さん。
心なしか、すでに泣いたような形跡さえ見受けられる。
…大事にするさ、あんたの娘…あんたも愛した一人の女だ。
ちらほらと様式を知らない奴がいたのか、馬鹿でかい拍手やら、原理の分からない花火やら、何故か来客席に向けて放たれるバズーカやらが目立ってはいるが、それも全て…蝶にとっては、ごくありふれていて当然な光景だったのだろう。
彼女が他の世界でどのような経験をしてきたのか、少しずつだが聞いてはいる。
そしてやはり、そのどの世界においても、人と関わりを持っていた時…そんな時間があっての、今だ。
彼女の事を全ては知らずとも、愛した人間が多いのは、必然的であろう…何せ、この自分が唯一惚れ込んでいる存在なのだから。
神秘的にさえ映る彼女が目の前にやってきて、誓約をし、指輪を交換して…
それから、彼女の顔を覆っていたベールを捲り、神聖にさえ思えてしまうその表情をあらわにさせる。
そして、誓いのキスなのだが。
お願いだから、皆の前ではおでこにしてくれと、懇願され続けて了承をしていたのだが。
俺がそれを守れるわけがない。
そういう所がまだまだ可愛らしいというか、なんというか。
少し緊張した面持ちで目を閉じるのを確認してから、成長したと言っても俺よりも小さな彼女にキスできるように、彼女の頬に手を添えて屈む。
あーあー、震えちまって…二人の時はあんなに安心した表情でキスされてんのに。
なんて思いを巡らせながら、全員の見ている目の前で。
俺は彼女との口約束を破り、少し大人になった少女の唇に口付けたのだった。