第29章 白と蝶
白石蝶が存在する証明がなされてから、五年以上が経つ。
その年、少女が誕生日を迎え…それから訪れたクリスマスイブ。
ポートマフィアの特別幹部に、武装探偵社とそれから防衛省…三足の草鞋生活を送る中、無理矢理作った休みの日。
組織の重鎮が総出で休みを作るのなんて、何年ぶりだろうか。
「準備、できましたよ」
「…そっち向いていい?」
『……まだダメかも』
「お前それで俺に最後に見せるつもりじゃねぇだろうな」
『い、いや…だって私、そんな中也に見て貰えるような「いいからこっち向けやとっとと」きゃッッ!!!!?』
純白のドレスに身を包んだ彼女を見るのは、これで二度目のこと。
だが、以前に増して色香を増し、大人っぽくなった彼女に、思わず生唾を飲んで…また、惚れさせられる。
普段は元々肌や素質が綺麗なのもあって、あまりしたがらないメイクもちゃんと施されていて、妙にこっちまで緊張させられる。
『…、ぁの…っ、中也…さん…?』
「え…?」
メイクや着付けを担当してくれた女が、くすりと笑って俺を見る。
「新郎さん、新婦さんに見惚れてしまわれてるんですよ。本当に綺麗…」
「見惚れ…、いや………ま、まあ蝶が綺麗なのは…っ、……見惚れてました」
担当者は、顔見知り。
というのも、蝶のファンサイトを設立した女のうちの一人で、ブライダルを提案してくれた。
中々に上質なもので、蝶に関してはもう話し合う段階から既に顔を真っ赤にさせていて、当日に死ぬんじゃないかと思うほどだったのだが。
殺されるのは、案外俺の方なのかもしれない。
『…可愛い…?』
「…っ!!!……、…綺麗…」
『綺麗っていつも言うじゃない…』
「仕方ねぇだろ、それしか思い浮かばねぇんだよ…可愛いけど」
『まさかまたフランシスさんからのオートクチュールになるなんて思わなかったけど…あの人もすごいよね、こんな綺麗なの作って私に持ってきちゃうなんて』
「ドレスが綺麗?んなもんお前の引き立て役にしかなってねぇんだよ結局、てなわけで写真撮らせろ今ここで」
「ベタ惚れじゃないですか中原さん?知ってましたけど」
「…蝶が相手なんだ、そりゃこうなるだろ?」
『ちょっと、その蝶さん放って別の人との方が話せるってどういうこと?』
「お前相手に緊張してんだよこっちは…っ」