第28章 少女のいる世界
やってくれる…、どこまでも、やってくれてしまう。
彼が死んでしまうかもしれない…そんな計画の中、私を遠ざけていたのは。
私に、その情報を掴まれるのを防ぐため。
首領が言うには、作之助本人から頼まれた話だったそうだ。
自分にもしもの事があったとき、戸籍だなんて言うものを…作れるかもしれなかったと、絶望させたくなかったそうだ。
『……馬鹿なんじゃないの、あの人』
「…最下級構成員に留まり続けた、ポートマフィアきっての大馬鹿者だよ、彼は」
組織を巻き込んでしまうかもしれないとのことで、首領にも話を通していたらしい。
そして、それならばと…当時三重スパイとしてポートマフィアに所属していた、安吾さんにも話を持ちかけていた。
首領を仲介して、織田作の知らない規模で、話が進められていた。
発案者が彼だったなんて、思いもしていなかった。
私は…確か、作れないと。
体質の関係で、そんなことをしてはいけないのだと伝えたはずなのに。
馬鹿だ…そんなことしようとするから、頭がおかしいって言われるんだ。
馬鹿しかいないのか私の周りには。
『…お酒持って行ってあげなきゃ』
「一人で行く気かよ?俺も行かせろ、先に言っとけって伝えねぇと気がすまねぇ」
「げっ、中也まで行くのかい…?私も飲み交わそうと考えていたのに」
「人気者だね、彼は…」
「私は貴方は嫌いですがね」
「知ってる。いつでも好きな時に戻っておいで、太宰君」
相変わらずの二人だが、それでも私は…恐らく今日というこの報われすぎた日を、永遠に忘れることはないだろう。
そして、織田作之助のことを。
何度私を泣かせてしまえば気が済むんだ…どれだけ私を楽にさせれば気が済むんだ。
…貴方が今生きてくれてさえいれば、これ以上な事なんて。
亡くなったかつての仲間を思い出して、それから今の幸せを十分に自分で噛み締めた。
皆がくれた幸せだ…皆が繋いでくれた幸せだ。
細く…時に途切れそうになりながらも、長く長く紡がれて、最終地点でこんなに立派に花を咲かせてしまった私の幸せだ。
悪いことばっかりじゃ、なかった。
我慢してたの、全部無駄じゃなかった。
『…あ、でも私次の誕生日でまた中原に戻るからね!間違わないでね皆!!』
「「「「「もう分かってるっつの!!!!!!」」」」」