第28章 少女のいる世界
してやられた、というのが本音だ。
「中原さんと籍を入れるということを考えて、あえて苗字は白石とさせていただきました。あと、血縁は…勝手ながら、孤児とさせてもらいました」
その方が、いい。
保護者だ親だと言うところに中也を巻き込んでしまえば、それこそ籍を入れる時にどうなることか。
かといって他に思い当たる適任といえば、ほかの世界の住人になってしまうから。
「これで、やっと恩が返せました。私も、貴女には命を助けていただいているんです」
『…そんな、大層な……びっくりですよ、もう』
「政府の方から協力も得られましたから、案外スムーズに通せましたけどね。確か、坂口さんという方と種田さんという方が、特別尽力してくれたとかなんとか…あと、資金の面に関しては、そちらのフィッツジェラルドさんにも協力いただけまして」
知ってる…全員、知ってる。
私の居場所は、ちゃんとこの世界にもあった。
気付いていなかっただけで、そんなにもたくさんの人が、私の幸せを願ってくれていた。
「父親のポジションは俺でも良かったんだぞ?」
『…、ごめんなさい、私の親、実はこの人なので』
へらりと笑って喜助さんの元に行くと、女にうつつを抜かしていそうな面構えだな…?なんて真顔で言ってのけられる。
『そうなの、本当に…』
「蝶ちゃんからでも大概なのにほかの人にまで…!!?」
嬉しそうにしていた顔が焦るのが面白い。
ああ、本当だ、思っていたよりも全然生きやすい世界だった。
独りじゃ、なかった。
「何やら、元々戸籍を作る算段自体は五年ほど前に政府側で作られていたらしい。…どうも、その計画の立案者が無くなってしまって、計画が打ち止めとなってしまったそうだが」
『政府側…って、異能特務課…?』
「いや、所属は別組織だと聞いたよ。ただ、その計画に則って動いたからここまでスムーズに動けたわけなんだが…半分は金にものを言わせれば、手に入ってしまう世の中だしね」
異能特務課の存在はどうやら知っているらしい。
話の流れからして、安吾さんや種田長官と親しかった人物と思われるのだが。
「誰なのか気になるって表情だね……一人は、森鴎外さん。言わずもがな、ポートマフィアの首領さん…もう一人は____」
その名前を聞いて、私は泣き崩れるという事を久しく経験することとなった。
織田作之助…彼の名だ。