第28章 少女のいる世界
突然に響き渡った一言に、場の空気がシン、とする。
『…どういう意味です?“浅野さん”』
「あ、浅野さん…?そういやあんた、今日ずっと蝶のこと、白石って…」
「……私の方から、蝶さんにこちらを贈呈させていただこうかと。卒業記念品とでも思ってくださいな」
殺気を向けかけた相手が差し出した封筒を受け取り、中を確認する。
するとそこには、白石蝶の名を指して書かれた書類…いや、一種の証明書のようなものが。
その内容を確認したところで、私の目は見開かれることとなる。
『……戸籍、謄…本…!?』
「え、戸籍謄本って…蝶、お前戸籍なんかあったのか!?」
『あるわけ…っ、あ、浅野さん、これは!!?』
「だから、卒業記念品ですよ」
理解が及ばない。
そんな顔を、私だけでなくほかの誰もが浅野さんへと向けていた。
唯一、乱歩さんくらいのものだろう、驚いていなかったのなんて。
「ほら、蝶さんには何かとお世話になりきっていましたし…本人に気付かれないようなお礼の方が、気遣わせないからといったことを、以前中原さんに伺っていたので」
何が一番、彼女の望むものになるだろう。
何をもってして、彼女の本当の幸せに結び付けられるだろう。
そう考えた結果、半年ほど前から、資金を得るために動き出し…見事に政府から口止め料などとして支払われていたものの一部をつぎ込んで、私の戸籍を作りあげてしまったそうだ。
発行されたのが今日だったそうで、私の身体のことを調べた上での判断だったそう。
『…私、こんなにしてもらっていい人間じゃ…ッ』
「この学園を設立する際、近くで起きた放火事件を収束させ、更に被害のあった当時の校舎を守ってくれたのは、紛れもなく貴女なんですよ」
『!!!…そんなことあるわ、け……』
「…いや、蝶。その放火事件…多分あれだ、松方さんの養護施設の」
あった、そんなこと。
あそこからこの学校は本当に近くにあるわけで…火の手を拡大させないようにと、能力で止めるのに尽力していたのも記憶にある。
まさか、結果的にそれが浅野さんのためになっていただなんて知らなかったけれど。
「まさか浅野さん、あんた…それで、蝶に“お世話になっている”って?」
「まさか、あの時の子が探偵社に勤務していただなんて思いませんでしたけどね…教育を受ける権利は、十分にあるでしょう?」