第28章 少女のいる世界
食欲というものを感じたのはいつぶりのことだろうか。
全部あのオムレツのせいだ。
「あんだけ食ったのにデザートが今からって…マジか、あいつ」
「やけにおっきい上に大量に用意されてたよね?あのオムレツだけ」
「お願いしに行ったら、オムレツ用にテーブルを設けてくれと言われたレベルでですね…相当食べると踏んでいたので、食欲が無い状態が続いているとも伝えたのですが」
喜助さんの言う人物が誰なのかくらい、私にはわかる。
全テーブルの中でも、規格外の量を用意してあるのはそこだけだったから。
テーブルを十席分は使用してある。
『なんて言ってあの量持たされたの?』
「……レイさんが俺の料理を見て飛びつかず、ましてやあの食欲がなくなるわけがねぇ!!!…と」
『へえ、よく分かってるじゃない…』
テーブルを三つ使って盛られたデザート軍の山。
ハートマークをあしらわれまくっているその机には、デカデカとしたメッセージカードに“レイさん専用!!!!レイさん以外の奴は食う資格無し!!!”なんて書かれている。
『相変わらず…』
「なぁ、あの十段ケーキの上のプレート、なんて書いてあるんだ?」
『貴女のためのナイトです、結婚相手がふざけた野郎なら俺のところに帰っておいで!…だって』
「あ、じゃああっちのテーブルのプリンの焼印に入ってる言葉は?」
『澪と結婚する計画はまだ終わってないから、早くこっちに戻っておい……うん、読まなくていいよ。軽い挨拶みたいなものだし』
「「「「あんたの旦那がご乱心なんですけど…!!!」」」」
ものすごい形相で私の後ろについてまわる中也に、事実をそのまま伝えてあげた。
『大丈夫よ、ここにそういう挨拶書いてる人、全員太宰さんみたいな感じのノリだから』
「お前は少しくらいそれを本気に思ってやれよ!!!?」
『だって私、毎日断ってたんだもの。…ね?太宰さんみたいでしょう?』
一瞬で納得する私の旦那様。
「…お前にとって苦じゃないならいい…相手変えるなら今のうちだぞ」
『変えるとかいう選択肢出してくるような男に要は無いので、とっとと消えてみませんか?』
「お前ほんと好きなのな俺のこと…」
『世界で唯一の旦那様なんだから当たり前じゃない』
「いや、白石さん…残念ながら、今日をもって貴女は、暫く中原さんの配偶者ではなくなります」